服薬、対話がやる気生む 継続方法医師らと相談包装開けやすくし効果

店頭でも薬の飲み残しなどをチェック(東京都清瀬市の野塩薬局)
店頭でも薬の飲み残しなどをチェック(東京都清瀬市の野塩薬局)
薬を決められた通り飲まない。患者が自己判断で治療を中止してしまう――。こうした事態を防ごうと、医師や薬剤師の取り組みが広がっている。指示の押しつけではなく、継続できる方法をともに考え、治療への意欲を高めてもらう。「薬の包装が開けにくい」など思わぬ原因が見つかることもあり、患者との粘り強い対話が求められている。

「よくなりたいと思っていますか」。奈良県立医科大病院(奈良県橿原市)で、石井均教授が糖尿病患者に優しく話しかける。患者は「当然です」と答えるが、こうした問いかけをするのは治療には患者の「やる気」が重要だからだ。

自己判断で中止

薬の服用、食事の管理、適度な運動……。糖尿病治療はやるべきことが多く、途中で挫折する患者がいる。血糖値が少し改善しただけで通院をやめる患者もいる。石井教授によると、患者の約1割が自己判断で治療をやめてしまうという。

医療界では長らく、患者は医師らの指示に従うものという考え方が一般的だった。日本製薬工業協会(東京・中央)が2015年6月に実施した患者2千人へのインターネット調査によると、処方された薬を医師や薬剤師の「指示通り飲んでいる」のは59%。「まあ指示通り飲んでいる」が38%だった。

一方で7割が処方薬の誤使用を経験。その内容(複数回答)をみると、「指示された回数通りに飲まなかったことがある」が39%でトップで、「症状がよくなったので、自分の判断で服用を中止した」が29%で続いた。

指示に従わないことがある背景には、意欲の無さや治療の意義を正しく理解できていないことがある。こうした状況を改善するため広がりつつあるのが、「患者がやる気や主体性を持って積極的に治療を受けることが重要」という考え方だ。「アドヒアランス」(執着心)と呼ばれる。

いかに納得ずくで計画通りに治療に臨んでもらうか。石井教授らは4月、患者との対話のあり方を研究するため日本糖尿病医療学学会を立ち上げた。「飲もうと思っても飲めない」という高齢者もいる。服薬の回数は適切か、障害は何かなどを医師が患者と話し合い、解決策を探る必要がある。「やる気を引き出す方法を共有し、医療の質を高めたい」(石井教授)

日本調剤の野塩薬局(東京都清瀬市)は14年8月から、薬を適切に飲んでいるかなどを月1回電話で確認している。「実は薬の包装が開けにくくて……」。高脂血症を患う同市の80代の女性はこう答えた。手が震え、薬を取り出せずに飲んでいない日があった。

柔らかい材質の包装に薬を詰め替えると、きちんと服用してくれるように。大倉憲二店長は「小さなことでも患者の態度を変えることができる」と話す。

じっくり30分指導

効果を実感しにくい薬は継続して飲む意欲が減退しがちだ。これを克服しようとする動きもある。

「症状の進行を遅らせる薬です。効果がみえないこともありますが、長い目で見てください」。3月、名古屋大病院(名古屋市)に集まった薬剤師による外来で、認知症の患者と家族への説明会が開かれた。

1家族にじっくりと30分ほど服薬を指導。月に数回、この外来に参加する愛知学院大学薬学部(同)の山村恵子教授は「以前は1年後の服薬の継続率は49%だったが、最近は73%に向上した」と話す。

医師も薬剤師も1日の中で患者と向き合うことができる時間は限られる。だからこそ、連携して粘り強く何度も対話を重ねる必要がある。山村教授は「自己判断による治療中止などを患者個人の責任とせず、社会全体で解決策を考えていくべきだ」と話している。

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飲みやすさや回数に工夫

服薬回数が多かったり、薬が飲みにくかったりすると、患者の治療意欲は低下するとされる。製薬会社にとって課題だ。

エーザイは2002年に骨密度と骨強度を高める骨粗しょう症の治療剤を発売。当初は1日1回の服用が必要だったが、07年には同様の効果が見込める週1回服用のタイプ、13年には月1回で済むタイプをそれぞれ追加した。飲み忘れてしまう患者を減らすためだ。

製薬各社は飲みやすくするため、水がなくても口の中で溶ける「口腔(こうくう)内崩壊錠」を導入している。飲み込む力が弱まり錠剤などの服用が困難な患者もいる。このため認知症の治療薬ではカップ入りのゼリー製剤が販売されている。

(辻征弥、吉田三輪)

[日本経済新聞朝刊2016年4月24日付]