方向音痴の強い味方 衛星アンテナは南西向き

よく道に迷う。スマートフォン(スマホ)のナビを見ながら歩いても、どの方角に向かっているのか、すぐに見失う。地下鉄の出口でも左右どちらに進めばいいのか分からない。せめて方角が分かれば手掛かりになる。住宅街やオフィス街、繁華街で、方角を知る方法を探った。

方角といえば太陽。時計を使って確かめる方法を、子どもの頃に習ったことがある。アナログ時計を用意し、短針を太陽の位置に合わせる。短針と12時の真ん中が南になる、というやり方だ。ただ実際にやってみると、まぶしくて正確な位置を測りにくい。

影と短針を合わせ 12時との中間が北

「迷い迷って渋谷駅」などの著書がある街歩きの達人、昭和女子大学の田村圭介准教授に聞くと「影を使えばいい」と教えてくれた。短針を太陽ではなく、自分の影の方向に合わせるのだ。12時と短針の中間が北になる。地域によっては微妙にずれが生じてしまうが、それでも時計の針で12時と1時の間に収まる程度。方角を知るには十分だ。

ただしこの方法は、雨天だと通用しない。昼夜天候を問わず確認する方法はないか。

日本地図センター(東京・目黒)の主幹研究員、小林政能さんに尋ねると、「街中で方角を知るには、家の向きやベランダの位置、衛星放送のアンテナが手掛かりになる」という。庭やベランダは南側が多い。衛星放送のアンテナはおおむね南西を向く。樹木の茂り方から方角が分かることもあるようだ。助言を胸に、さっそく街を歩いてみた。

まずは自宅周辺から。方角を確認するコンパスはスマホのアプリを利用した。マンションのベランダや一戸建ての庭は、確かに南向きが多かった。ただ必ずしも真南ではないので大まかな目安といった程度。太陽光パネルも南向きだが、正確な方角までは分からない。

庭や公園の草木は南側に向けて生い茂っているようにも見えるが、確信は持てない。小林さんによると「樹木の茂り方は山に行けばある程度手掛かりになるが、街中ではあまり役に立たない」。地形や植え方に影響されるようだ。街路樹についたコケは、北側の方が明らかに多かった。これは使えるかもしれない。

衛星放送のアンテナは、そこら中にあった。どれも同じ向きだ。家庭で使う衛星アンテナの大半は東経110~128度の赤道上を向いており、方角だと南西になる。アンテナなら雨天でも確認できる。知っておくと便利だ。

渋谷や新宿といった繁華街でも調べてみた。住宅街と違って、ベランダや庭などの手掛かりはない。ブラインドが閉まっている方が南側ではないかと考えたが、必ずしもそうではなかった。目隠しのためにブラインドを閉めるオフィスが多いようだ。

衛星放送のアンテナはたくさんあった。住宅街では1つしかない家が多かったのに、繁華街では複数ある。しかも明らかに角度が違うものがある。どういうことなのか。

VHFアンテナ 東京タワー向き

ビル街では照り返しでも影が
スマホは真北と磁北を選択できる

アンテナのプロ、東京アンテナ工事(東京・葛飾)社長の三矢宏さんに聞くと「東経154度にある衛星を利用するアンテナがある」と教えてくれた。デジタルラジオ放送などが使っているという。ただしBS用などと比べてアンテナの数は少ないので、周りを見渡せば見分けられる。こちらは南西ではなく南南東を向いているので、間違えないよう注意したい。

三矢さんはさらに、アンテナを使った方角の確認法を伝授してくれた。注目するのはVHFアンテナ。魚の骨のようなUHFアンテナよりも大きく、横の骨の長さが均一ではないアンテナだ。地上デジタル放送への切り替えで不要になったものの、多くの家やマンション、雑居ビルなどの屋上にまだ残っている。

「横の骨が短い方が電波を受ける側で、関東地方の場合、東京タワーを向いている」という。東京タワーの方角は場所によって異なるが、近い場所なら手掛かりにはなる。「VHFアンテナは名古屋なら名古屋テレビ塔、大阪なら大阪府と奈良県の府県境にある生駒山など、各地域の旧送信所を向いている」といい、調べておくと使えそうだ。

方角確認法、オフィス街ではどうだろう。大手町で調べてみた。影と時計はもちろん有効だった。問題はそれ以外。衛星放送のアンテナは、高層ビルが立ち並ぶオフィス街では見つけられない。もちろんVHFアンテナもない。ブラインドも手掛かりとしては弱い。街路樹や植栽はどうかと言えば、きれいに刈り込まれるなど管理が行き届き、全く参考にならなかった。

日本地図センターの小林さんは「高層ビル街は全地球測位システム(GPS)でさえ位置を間違えることがある。地球上で一番方角が分かりにくい場所ではないか」と指摘する。晴れの日の昼間は影と時計で確認し、それ以外はビル名などをチェックする。どうやらそれしかないようだ。

記者のつぶやき
■ビル街、照り返しに注意
取材の過程で知ったのが、方位磁針が示す北は真北ではないということ。地球環境の変動に応じて長い年月で変化していて、磁北は現在、東京だと西に7度ずれているという。スマホのコンパスも真北を使うか磁北を使うか選ぶ仕様になっていた。7度なら街を歩く分には大きな影響はないが、登山では注意が必要かもしれない。
オフィス街を歩いていて閉口したのがビルからの照り返し。影が違う方向に延びてしまう。オフィス街は手掛かりが少なく、人工物に囲まれた街で方角を知る大変さが身にしみた。そもそも分かりにくい場所だと覚悟して、事前にルートを念入りに調べるよう心がけたい。
(河尻定)

[日経プラスワン2016年4月23日付]

注目記事