生活習慣病、子供のうちに予防 採血検査や血圧記録
富山県高岡市は毎秋、市内全ての小学4年と中学1年の計約3千人を対象に「たかおかキッズ健診」を行う。1994年に始まり、無料で受診率は90%台だ。
問題に気付かせる
担任や養護・栄養担当の教諭が生活習慣病などについて授業で教え、身体計測をして肥満度を算出。血圧や腹囲の測定、採血検査もあってメニューは大人さながらだ。異常が見つかれば医療機関で精密検査や指導を受け、希望者には親子の勉強会や個別指導もある。
健診に中心的に関わる高岡ふしき病院(同市)の宮崎あゆみ小児科部長は「個別指導では『ジュースを飲まない』『毎日体重を測る』などの目標を立ててもらう。健診を続けた結果、脂質が高い子供の割合は顕著に下がり、肥満の割合も低下傾向にある」と話す。
肥満治療には食事・運動療法に加え、生活の問題点に気付かせて改善を促す「行動修正療法」がある。
「おやつの量を守れた」「1時間以上ゲームをしなかった」――。国立病院機構甲府病院(甲府市)の内田則彦・小児科系診療部長は家庭での生活を記録するチェック表を使って指導。これら9項目をチェックし、1週間ごとに守れた日数を数字化する方式だ。
内田部長は「重度の肥満は体重を落とすのに時間がかかるので、中程度のうちに始めるのが大切。小学高学年になるといじめの対象にもなるので、低学年のうちに対策を」と勧める。
教育で予防意識を高める研究もある。北海道旭川市立朝日小学校の森田真弓養護教諭は保健学習で、6年生約70人に血圧を自分で測定・記録してもらい、生活習慣病についてのアンケートに回答してもらった。
その結果、「自分の血圧が気になる」児童は学習前の49%から66%に増加。「気をつければ病気にならない」「健康は自分で守る」などの項目も高くなった。森田教諭は「太った子と痩せの子が増え、バランスの良い体格の子が減った。以前より体を動かす時間が減っている」と注意を促す。
運動しすぎもダメ
歩行困難などに陥るロコモティブシンドロームになるリスクが高い子供が増えているとの指摘もある。
帖佐悦男・宮崎大学教授(整形外科)は「運動不足で柔軟性、筋力などが低い子供だけではない。運動のしすぎや誤った運動法で手足や脊柱にスポーツ障害を負う場合もある」と説明する。いずれも将来、運動をしない生活を送り、ロコモになる恐れがあるという。
京都府や埼玉県、宮崎県などではモデル事業として、子供の運動器の状態を調べた。宮崎では2007年度から小中学校を対象に実施。15年度までの計約5万人分の集計では、運動器疾患の推定罹患(りかん)率は約10%だった。脊柱変形と下肢変形が多く、しゃがみ込む動作ができない子も約10%いたという。
しゃがみ込めないのは足首やひざ、股の関節が硬いためだ。「全身を使った遊びをせず、体が硬くてバランス感覚も良くない。転倒時に手で体をかばうことができず、顔にけがをする子もいる」(帖佐教授)
国は4月から全国の小中高校の学校健診に運動器の調査を追加。(1)背骨が曲がっていないか(2)手が真っすぐ上がるか(3)肩や肘、膝の関節に痛みや動きが悪いところがあるか(4)片脚立ちが5秒以上できるか――などをチェックする。ロコモの芽を早く見つけ、生活習慣の改善やスポーツ障害の治療に結びつける狙いだ。
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運動能力は低下傾向
肥満傾向の児童生徒は1970年から2000年までの30年間で2~3倍に増えた。10歳児でみると、80年代後半からの増加が目立つ。背景には栄養状態の向上のほか、運動不足がある。文部科学省の体力・運動能力調査によると、子供の体力や運動能力は85年をピークに低下している。
最近は小学生や中学生の肥満率はともにゆるやかな減少傾向だが、10~12歳は15年で9%前後と他の年齢に比べ高い。
原光彦・東京家政学院大学教授(小児科)らが小学4年生を対象にした生活習慣の調査(10年)によると、小児期メタボリックシンドロームと最も関係が深い生活習慣は運動。運動好きの子はそうでない子に比べて腹囲や収縮期血圧、中性脂肪などの値が低かった。
調査で見えてきた肥満を予防する手立ては(1)早寝早起き(2)毎日朝ご飯を食べる(3)テレビやゲーム機などに費やす時間は1日に2時間未満(4)週3回以上スポーツをする――など。原教授は「肥満小児の3~4人に1人は非アルコール性脂肪肝で、血圧や血糖値なども高い。将来、動脈硬化になるリスクが高い」と指摘する。
(編集委員 木村彰)
[日本経済新聞夕刊2016年4月21日付]
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