トランプ氏なぜ人気?過激発言、不満持つ層捉える

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米国の大統領選挙の候補者選びで、ドナルド・トランプ氏という人が人気を集めているそうね。どんな人で、なぜ人気なのかな。

 トランプ氏について、林美帆子さん(28)と関満子さん(48)が大石格編集委員に話を聞いた。

 トランプ氏ってどういう人ですか。

 「11月の米国の大統領選挙に向けた二大政党の候補選びが進行中ですが、野党の共和党の候補レースでトップに立っているのがトランプ氏です。出馬表明した当初は米メディアも『泡沫(ほうまつ)候補』扱いでした。ところが派手な言動を連発して注目を集め、支持率が急上昇しました。米国の各州で順次実施されている共和党の予備選や党員集会で着実に票を集めています。最近、やや勢いに陰りもみられますが、現時点で共和党の候補に指名される可能性が最も高いことは間違いありません」

 「トランプ氏はこれまで上院議員や州知事などの公職に就いたことがありません。むしろ『政治家ではない』ことを売りにしています。日本では1980年代から『不動産王』として知られていましたが、ふつうの米国人が経済人の名前を知る機会はさほどありません。全米規模で有名になったのは2004年にテレビ番組のホスト役を務めるようになってからです。面白い商売ネタをプレゼンした参加者に出資して実際に出店させるという内容で、しくじると『おまえはクビだ!』と怒鳴るさまが評判になりました。つまりテレビタレントとして人気者になったのです」

 そんなトランプ氏がなぜ共和党の最有力候補になったのですか。

 「所得格差の拡大などにより社会に不満を抱く米国人が増え、過激なもの言いに飛びつく傾向にあるという分析がよくなされます。90年代以降の米国では中南米からの移民(ヒスパニック)の人口が劇的に増え、いまや米国人のおおよそ5人に1人を占めます。共和党主流派の幹部たちはヒスパニック票を獲得できる大統領候補を擁立したいと考えていました。念頭にあったのは、現在トランプ氏に次ぐ2位のクルーズ上院議員や、選挙戦から撤退を表明したルビオ上院議員です。2人はルーツがキューバです。ところが、差別をなくそうと少数民族に与えられる優遇策などを不快に思う層には『みんなが内心思っているけど、実際に言ったらまずいかな、と考えていること』を堂々というトランプ氏は極めて魅力的です」

 「米国政治に詳しい大学教授は『トランプ氏はWASP(ワスプ)だから』と説明していました。WASPとは白人(White)、英国にルーツを持つアングロサクソン人(Anglo-Saxon)、キリスト教プロテスタント(Protestant)の頭文字をつなげた言葉で、米国の典型的な白人エリート支配層を指します。歴代44人の米大統領の中で、現職のオバマ氏以外は全員が白人、アイルランド移民の子孫でカトリック教徒だったケネディ以外は全員がプロテスタントです」

 トランプ氏の発言はマスメディアも大きく取り上げますね。

 「従来、米大統領選の候補選びは3月には決着してきました。ところが08年の民主党はオバマ氏とヒラリー・クリントン氏の戦いが長引き、決着は6月でした。オバマ・ブームと相まってテレビ局の視聴率はどんどん上昇し、広告収入も増え、もうかりました。その成功体験が影響して、最近の米メディアは物議をかもす発言をあおってトランプ現象の一翼を担っている感があります」

 ズバリ、トランプ氏が大統領になる可能性はありますか。

 「7月の共和党大会までに候補者指名争いの決着がつかないと、党大会でまったく別の新しい候補を擁立し、決選投票で指名を決めることも可能になります。それでも、現時点ではトランプ氏が優位だと思います。一方、本選挙で戦う民主党の候補は、初の女性大統領をめざすクリントン氏が優位ですが、サンダース上院議員をなかなか振り切れず、あまり強い候補には見えません」

 「実は、全米の各州の大部分は、投票する前から民主党と共和党のどちらが勝つか、結果がほぼ見えています。大統領選挙の結果を左右するのは、オハイオ、バージニア、フロリダの3つの州でどちらが勝つかです。仮に共和党が3州すべて取れれば『トランプ大統領』誕生、ということになるかもしれません」

■ちょっとウンチク
駆け引き上手の商売人
トランプ氏は名門ペンシルベニア大で経営学修士号(MBA)を取得して家業の不動産会社を継いだ。日本がバブル景気に沸いた1980年代、地元ニューヨークの有名ビルを買いあさる日本勢と、あるときは敵、あるときは味方として接した。日本が米本土を防衛する義務を負わない日米安全保障条約を「不平等」と批判する日本観の背景に、この時期の経験があることはもっと注目されるべきだ。
日本経済新聞には30年以上前から登場している。当時、取材した先輩記者に聞くと、「なんだ、この記事は」と電話で怒鳴り込んでくるかと思うと、食事に行こうと誘ってくる。駆け引き上手の商売人という印象だったそうだ。
日本や中国を悪者に仕立てて人気を博するようになって以降、トランプ氏の集会は「外国メディアお断り」である。世界中がトランプ氏に不安を抱く現状そのものが意図的な駆け引きの一端なのかもしれない。トランプ氏とわたり合える政治家が日本にいるのか。こちらもかなり不安である。
(編集委員 大石格)
■今回のニッキィ
林 美帆子さん マスコミ勤務。毎朝5時に起きて出勤前の「朝活」に励む。「ヨガをしたり、キャリアコンサルタントの資格の勉強をしたり、充実した毎日です」
関 満子さん 生命保険会社勤務。高校生の息子さんが吹奏楽をしていて、自身もコンサートが好き。「先日は親子3人でジャズのライブハウスへ行きました」

[日本経済新聞夕刊2016年4月18日付]

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