妊娠に20代から備える 月経時の異常に要注意
女性の平均初婚年齢は29.4歳、同初産年齢は30.6歳と晩産化が進む。ただ、現実は加齢に伴い妊娠・出産は難しくなる。特に30代後半からは顕著だ。体外受精など高度生殖医療を受けても、妊娠・出産率は30代半ばから年々低下、逆に流産率は急上昇する。
「医学的には20代が最も妊娠しやすく、母体、胎児とも安全に出産できる確率が高い」と東邦大学医療センター大森病院産婦人科の片桐由起子教授。不妊治療を受ければ妊娠すると思っている人が多いが「残念ながら万能ではない」(片桐教授)。体外受精などで出産に至るのは、20代でも総治療件数当たり約2割だ。
将来、妊娠を望むなら、独身であっても20代から定期的にチェックしておきたいことがある。
まず、月経の状態や婦人科の病気だ。月経不順や無月経をそのままにしていないだろうか。毎月出血していても排卵が無いこともある。習慣にしたいのが基礎体温の記録。体温は排卵後に上昇するので、低温期と高温期の2相になる。この温度差が0.3度以上あれば排卵があったと考えていい。
必ず定期健診を
月経時に痛くて学校や職場に行けない、出血量が異常に多い、月経時以外にも腹痛や腰痛がある人は、子宮内膜症や子宮筋腫、卵巣嚢(のう)腫を疑ってみてほしい。これらも妊娠を妨げるので、早めに受診しよう。
受診し、「症状が初期だからと様子を見ることになった場合も定期的に診察を」と片桐教授。何年も放置し「妊娠を希望する頃には驚くほど進行していたというケースもある」という。1年に1回程度はみてもらおう。
通常の方法で妊娠しにくく不妊症治療を始めるとなると、年齢的な問題など時間との闘いになることが多い。いざ妊娠をと考えた段階で、他の病気の治療に迫られると、貴重な時間を奪われることにもなりかねない。
バセドウ病など甲状腺の病気や糖尿病も排卵障害などを招きやすい。また「妊娠を引き金に隠れていた病気が表面化することもある」(片桐教授)。妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などが代表だ。血圧や血糖値が高めの人は、今からしっかり管理しておきたい。
乳汁を出すプロラクチンというホルモンが増える「高プロラクチン血症」も無排卵や月経不順の原因になる。胃薬や抗鬱薬の副作用で起こることもあるが、注意したいのはプロラクチンを異常に作る腫瘍(できもの)「プロラクチノーマ」だ。脳の下垂体にでき、良性で20~30代女性に多い。
東京クリニック内分泌・代謝内科の三木伸泰主任部長と小野昌美間脳下垂体疾患部門部長は、カベルゴリンという薬で治療、10年で258人が妊娠した。「妊娠率は93%。40歳未満で治療を始めた人はほぼ全員妊娠した。中には20年間にわたり無月経だった人も。治療を2、3年続けると腫瘍も消える」(三木部長)
以前は手術で腫瘍を摘出していたが、今は国際的にもカベルゴリンでの治療が優先。腫瘍があっても血中プロラクチン値があまり上昇せず、病気が見過ごされる例が少なくない。三木部長は「少し高めの人も腫瘍を疑って造影MRI検査を受けてほしい」と話す。
体を冷やさない
病気だけでなく、やせ過ぎも要注意だ。排卵しにくくなるだけでなく、「出生体重が低下し、将来、子が肥満や糖尿病、高血圧などの生活習慣病になる危険性が高くなることがわかってきた」と早稲田大学理工学術院総合研究所の福岡秀興教授。母親の栄養状態が悪いと「受精から乳児期までに起こる遺伝子の働きを調整する仕組みに影響を与える」という。
国民健康栄養調査では、20代女性の17%、30代の16%が体格指数(BMI)18.5未満の「やせ」に該当する。「将来、出産を希望する人は、20~22を今から維持しておくべき。必要なカロリーを食事から取って」と福岡教授。葉酸やビタミンD、ビタミンB群、鉄分も不足しないように。
冷えや喫煙にも注意が必要だ。「骨盤内の血流が悪いと卵巣の働きが低下しやすい」と片桐教授。喫煙も卵巣機能低下を招く。今すぐ禁煙を。
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凍結卵で妊娠、過度に期待しないで
将来の妊娠に備え、卵子を保存しておく「卵子凍結」。本来はがんの治療などで妊娠が難しくなる恐れのある人が対象だが、最近は加齢による卵子の老化を心配する健康な未婚女性が利用するケースもある。少子化対策の一環として、卵子凍結に補助金を出す自治体や企業も出てきた。
「選択肢が広がるのはいいことだが、卵子凍結は必ずしも将来の妊娠を保証しない」と片桐教授。凍結卵子は未受精卵であり、受精卵を子宮に戻す体外受精よりも妊娠が難しく、妊娠率は下がる。「卵子の時間は止まっていても、母体年齢とともに妊娠リスクは上昇することを忘れないで」(片桐教授)
(ライター 佐田 節子)
[日経プラスワン2016年4月16日付]
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