ルーム監禁事件、被害者の視点で

2016/4/10

映画セレクション

わが国で今、社会を騒がせている誘拐監禁事件。欧米などでも事件は多い。監禁事件は事情が様々な上、被害者の心の裡(うち)はなかなか伺いしれない。そんな監禁事件を題材にした本作は、オーストリアで起こった事件に取材したベストセラー小説を基に、被害者の視点から監禁事件の顛末(てんまつ)を描いている。

映画の前半の舞台は狭い部屋。生活に必要な最低限の設備はあるが、天窓以外に窓はなく、唯一の扉には鍵がかかっている。そんな部屋で若い女性のジョイ(ブリー・ラーソン)と幼い息子のジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)が暮らしている。

冒頭は5歳の誕生日を迎えたジャックの姿から始まる。夜中に時々オールド・ニックと呼ばれる男がくるが、ジョイはその男に誘拐され7年間監禁状態にあること、ジャックが男との間の子供であること、ジャックが外の世界を知らずに育ったことなどが知れる。

映像は主観カメラを多用しながら、そんなジャックの目線を際立たせる。やがてジャックが部屋の外の世界に興味を抱くようになると、ジョイは部屋からの脱出を企てる。ジャックが死んだふりして男に運び出してもらう計画を実行に移すが、その様子がサスペンスフルに描かれていく。

後半は脱出に成功してジャックがリアルな世界に目を奪われる中、ジョイは両親の離婚、父親によるジャックの無視、マスコミの攻勢など予想外の現実に戸惑い傷つく。そんな母親を見てジャックが気遣う姿が何とも切ない。

監禁という残酷な出来事と解放後の騒動と厳しい現実を被害者の目線で綴(つづ)っていくが、映画は被害者の傷ついた心に寄り添いながら、母子2人が新たな世界を力強く生きていく姿を描き出して胸に響く。監督はアイルランド出身のレニー・アブラハムソン。1時間58分。

★★★★

(映画評論家 村山 匡一郎)

[日本経済新聞夕刊2016年4月8日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…