子供の発達障害、社会的自立へ支援広がる

2016/4/7付
人の目を見て話ができない、突然大きな声を出してしまう――。「自分勝手」で「困った」人だと誤解される行動や態度の人の中には、発達障害と呼ばれる生まれつきの脳機能障害を患っていることがある。周囲が早く気づき、障害の特性に合った訓練を受けられれば、社会からの孤立を防ぎ自立を促すことも可能だ。

「息子さんはうちでは面倒見きれません。専門機関の受診をお勧めします」。東京都の39歳の女性は、息子(当時4歳)が通う幼稚園から言われ「目の前が真っ暗になった」と話す。言葉が遅く、運動会や学芸会で一人違うことをしていたが「早生まれだから、こんなもの」と構えていた。

特性理解し接する

女性は「育て方が悪かったのか。妊娠中に何か問題があったのか」と自分を責めたが、小児神経専門医のいる医療機関で広汎性発達障害と診断された。「脳機能の障害と分かり、逆に気が楽になった」と女性。

今は転園し、週に3回、治療と特別な教育プログラムのある社会福祉法人が運営する教室に参加する。「動く物に注意を奪われやすいので視界を遮って作業させる」など、特性に合った接し方も指導してもらう。「早く相談に行けばよかった」と笑顔を見せる。

何らかの障害があるのではないかと気づくのは、幼稚園や小学校など集団生活に入る際のことが多い。もし子どもの反応や行動で気になる点があれば、市町村の窓口や各自治体の発達障害支援センターに相談してみよう。医療、福祉、教育などの各関係機関と連携しながら、病気の情報やその後の教育支援に関する情報を提供している。

民間でも発達障害の子どものための専門的な学習や就労支援が広がり始めた。

自閉症児の学習支援を手掛けるADDS(東京・新宿)の熊仁美共同代表は「発達障害は目に見えない障害」という。知的な遅れを伴わないために、わがままで困った性格と誤解されてしまうことが多い。孤立感を高め、不登校やひきこもりなどにつながりやすい。

「発達障害は、発達しないわけではない」と熊さん。多くの人が誤解していると指摘。ADDSでは早期の集中療育に取り組んだ児童の半数以上で、いわゆる通常の知的水準まで発達がみられる。「障害を個性としてありのまま受け入れるのも一つ。ただ、それだけでは社会的自立を期待するのは難しい」(熊さん)

病気の特徴を理解し「その子の強みを最大限まで引き上げることが教育」(熊さん)と主張する。ADDSではペアレントトレーニングと呼ぶ、親子コミュニケーションの改善に力をいれる。例えば、あいさつできない子どもに、最初は小さな声で一緒に「おはよう」と言う。うまく言えたら褒める。毎日繰り返すうち、できなかったことができるようになっていく。

当日の気分を講師(左)に伝え、発達障害児向けの授業を受ける中学生(東京都世田谷区のLeaf駒沢教室)

少し成長すると、将来の就労に不安を感じる親も多いだろう。学習障害を持つ14歳の少年。読み書きができず、学校へは通っていない。代わりに発達障害のある人向けの就労・就学支援を手掛けるリタリコ(東京・目黒)が運営する教室などに週5日通ってパソコンを使って自己表現を磨く。シナリオライターになるのが夢で、コンテスト作品を制作中だ。

子供の居場所探す

51歳の母親は「是が非でも学校に行かせなければと考えていたときは苦しかった。子どもが自分らしくいられる居場所を見つけ、道が開けた」と振り返る。

リタリコの長谷川敦弥社長は「視力が悪い人に眼鏡があるように、学習障害で文字が読めない人も、手段さえあれば障害は障害でなくなる」と話す。障害を受け止める周囲の気持ちと、学習や就労の場での創意工夫が求められている。

◇     ◇

「見えない障害」理解難しく

文部科学省の調査(2012年実施)では、全国の公立小中学校の通常学級の児童生徒のうち、人とコミュニケーションがうまく取れないなど、発達障害の可能性のある子どもが6.5%に上るとわかった。推計で60万人、40人学級なら1クラス2~3人だ。

ところが多くが見過ごされ、4割弱の児童生徒が特別な支援を受けていない。子どもの障害を受け入れることを、社会からのドロップアウトと感じ、夫や両親にも相談できず抱え込んでしまう母親も多いという。「見えない障害」の理解・受け入れの困難さを示す。

熊さんは「5歳くらいまでの幼児期から療育に取り組むことが、その後の発達にも非常に重要」と指摘。家族や教育現場、友人など周囲が正しく理解し、受け入れることが求められる。

(松原礼奈)

[日本経済新聞夕刊2016年4月7日付]