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東芝やシャープが経営難に陥っているそうね。日本の家電製品は優秀というイメージがあるけれど、どうしてそんなに苦戦をしているのかしら。

家電の生産を手掛ける電機メーカーをテーマに、菊池名津さん(36)と世良真実子さん(26)が中山淳史編集委員に話を聞いた。

日本の家電メーカーは苦戦しているのですか。

「特に東芝とシャープの動向が今、注目されています。東芝は当初、2016年3月期に過去最大となる7100億円の最終赤字を計上する見通しでしたが、医療機器部門をキヤノンに売却することで、赤字を多少、圧縮できそうです。また、電気洗濯機や電気冷蔵庫といった我々の生活に身近な製品の国産第1号を生み出してきた家電部門は、中国の家電メーカーに売却します。東芝の室町正志社長は創業時の事業である家電部門の売却について『じくじたる思い』と語りました。また、国産第1号のテレビをつくったシャープは15年3月期決算では2200億円超の最終赤字となり、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業への会社自体の身売り話がようやく決着しました」

「苦戦は2000年ごろから続いていました。日立製作所やパナソニックは7000億円超、ソニーも4500億円超と過去最大の赤字を計上し、リストラを断行しました。09年には三洋電機がパナソニックに買収されました」

苦戦の理由は何ですか。

「1つは日本の人口が減っていることで市場が縮小傾向にあるためです。白物家電の15年の国内出荷額は14年比2.8%減の2兆2043億円と2年連続前年割れとなりました。また、AV(音響・映像)機器などの黒物家電は同6.0%減の1兆2620億円と5年連続の前年割れでした。国内に家電メーカーが多すぎるとの指摘もあります。現在、8社体制といわれますが、韓国ではサムスン電子とLG電子の大手2社に集約されています。世界シェアを見ても、日本メーカーで10位以内に入っているのは5位のパナソニックだけです」

「そもそも、国内各社は1990年代以降、時代の流れを見誤ってきました。半導体では大型コンピューター向けの高性能で高額な製品で先行しましたが、パソコンが主流になるダウンサイジングの流れに乗り遅れました。逆にこの流れに乗ったのが韓国や台湾のメーカーです。安くて使い勝手の良い半導体生産に力を入れました。液晶も同じ構図です。テレビやデジタルカメラの分野ではスマートフォンに機能を奪われてしまう現象も顕著になりました。日本勢はここでも失敗しました」

国内メーカーは、なぜ時代を読み間違えたのですか。

「『イノベーションのジレンマ』という言葉があります。成功体験があだとなり、強みだったものがいつの間にか弱みになってしまうことです。国内メーカーは既存の市場シェアにこだわりすぎ、例えばインターネットの時代を見据えた取り組みにも積極的ではありませんでした」

「生産体制の面では世界的な構造変化についていけませんでした。日本のメーカーは関係の深い下請け会社などグループの中で事業を完結させる『垂直統合型』のビジネスモデルを基本としています。しかし、今や米アップルの『iPhone(アイフォーン)』生産に代表されるように、自らの設備投資は抑え、世界各地で生産委託する国際的な『水平分業』にビジネスモデルが移行しています」

家電メーカーの今後の展望はどうですか。

「突破口の一つは『IoT(インターネット・オブ・シングス=モノのインターネット)化』ではないでしょうか。全てのモノがネットにつながることをいいます。英ロールス・ロイスは自社生産した航空機エンジンをネットに接続し、エンジンの状態を常時監視できる仕組みをつくっています。例えば整備が必要な場合は不具合が出る前に航空会社に連絡を入れ、飛行機の運航に支障を来さないよう支援するサービスを提供しています。その結果、現在、航空機エンジン部門の売上高の7割がIoTサービスによる収入となっています」

「日本でも日立などがIoTに注目しています。具体的な取り組みはこれからですが、モノだけでなく、サービスでも稼げるような新たな製造業のビジネスモデルをつくっていくことが、これからの大きな課題になるでしょう」

ちょっとウンチク


韓台中、大規模化で席巻
 今やテレビやスマートフォン(スマホ)になくてはならない液晶は19世紀末にオーストリアの科学者が発見したとされている。科学的発見の後、社会的・産業的に価値を見いだしたのは米国人。家電製品に組み込んで初めて製品化したのは日本企業だったが、産業として大規模化し、市場を席巻したのは韓国や台湾、中国だった。
 液晶を得意とするシャープが台湾の鴻海精密工業に買収されるのは象徴的な出来事だろう。半導体メモリーのDRAMやスマホの時も同じだった。結局は安価な労働力と巨大な市場を持つ、あるいはそういう市場と近接して機敏に設備投資をした国・地域が最後に果実を手にする、という循環だ。
 日本企業の進む道はどこにあるか。デジタル化時代は技術の伝播(でんぱ)が速く「もの」だけで勝負するのはつらい。やはり欧米で芽生えつつある「もの+サービス」のまねされにくい事業モデルの確立が期待される。少子高齢化など課題の多い日本だが、そうした課題の中にこそ、ビジネスの好機はある。
(編集委員 中山淳史)

今回のニッキィ


菊池 名津さん 専門商社勤務。風呂好きが高じて1年前から週1回のペースで銭湯巡りをしている。「今まで30軒くらい制覇しました。風呂上がりの一杯は最高です」
世良 真実子さん 情報通信メーカー勤務。自宅の近所がラーメン激戦区なこともあり、ラーメン店巡りにはまる。「味に集中したいので、店には1人で行きます」
[日本経済新聞夕刊2016年4月4日付]

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