上司と出張、気配り上手に 役割は何? 常に考え

新社会人として働き始めると、上司と一緒に出張する機会が訪れるだろう。取引先など外部の人に対して失礼があってはならないが、上司にも同様の気配りが求められる。社内の人間だからといって甘えは禁物。部下の振る舞いは移動中からチェックされる。印象度を上げるマナーとは――。
上司(右)の半歩前を歩いて道案内する(東京・丸の内)

3月中旬の午前。新大阪駅から新幹線で東京駅に着いた象印マホービン広報部サブマネージャーの美馬本紘子さん(36)と部下の山田周平さん(24)は、東京駅の丸の内側を歩き始めた。

2泊3日の今回の出張は新製品を都内のメディア各社にPRするのが目的。山田さんは1社目の訪問に向け、美馬本さんの半歩前を歩き、道案内に余念がない。「美馬本さん、これから地下鉄に乗ります」などと、スマートフォン(スマホ)の道案内アプリを見ながら誘導する。

「上司に気持ちよく仕事をしてもらうための気配り」と山田さん。この日の夕食も宿泊するホテル付近で考えているといい、「美馬本さんが好みの雰囲気の良いイタリアンレストランをこれから予約する」。

出張して上司を目的地まで誘導し、食事にも配慮するのは部下の業務の一環。ビジネスマナーのコンサルタントの多くはこう指摘する。上司にとっては、部下が日ごろ、取引先にどう応対し、接客しているのかを、自分が接客されることによって確認できるのが出張の場だという。

乗り物にも席次

上司に失礼のない振る舞いは新幹線や飛行機に同乗する際にも必要だ。会議や宴会と同様に、座席にも上座と下座がある。最近は外国人社員が増え、日本式のマナーを教わらず、タクシーの後部座席に上司より先に乗車するケースもあり、日本人の上司が後日、上座と下座を説明するという。

席次は窓際が上座、通路側が下座。部下は通路側に座り、上司の荷物の上げ下ろしをする。4人ボックス席などケースによって席次に原則がある。コンタクトレンズ製造のシードの経営企画部係長、金沢寛子さん(36)はルールを踏まえた上で、「部長が通路側を希望したら従う。臨機応変に席次を決める」と話す。上司が心地よいと感じる席が上座、という考え方だ。

上司のエスコートで失敗した例もある。帝人人事総務部の大竹良典さん(30)は2011年の夏、米国西海岸に部長、先輩社員の計3人で出張。現地大学で学ぶ日本人学生のリクルートが目的だった。

ロサンゼルスから車でサンディエゴに向かった時、助手席に座った大竹さんは1時間ほどして居眠りしてしまった。やがて先輩も寝てしまったという。部長はその後2時間、運転する現地コーディネーターに気を使う羽目に。夜、大竹さんが怒られたのはいうまでもない。

大竹さんは「当時の部長にあの日のことをいまも言われる」と苦笑いする。この失敗を教訓に今では出張前日、体調管理に努めるのはもちろん、上司との待ち合わせは少なくとも10分前に約束場所に着くなど、部下の心得を徹底して上司から信頼されている。

目的を知り準備

失敗の芽を事前に摘む方法はある。ビジネスマナーに詳しい日本能率協会(東京・港)シニアエキスパートの中島克紀さん(59)は、新入社員に「上司から出張に同行するよう言われたら、なぜ自分が選ばれたのかを恐れずに聞いてほしい」と助言する。

尋ねられた上司は部下の積極性を評価し、「取引先への顔つなぎなのか、具体的な商談に参加させるのか、同行させる目的を教えてくれるはず」と言う。

「顔つなぎだと分かれば部下は取引先でも上司を引き立て、自分は半歩後ろに立ち、控えめに振る舞う。懇談の場が用意されていれば、参加者全員を楽しく過ごせるよう気配りするといった役回りを、出張前に頭にインプットできる」と中島さん。自分が出張で求められていることは何か、自分がどんなことができるのか。備えあれば出張で慌てる必要はない。

ビジネスパーソンである限り、会社の外に出ても上司と部下という関係は続く。上司にきちんと対応すれば、お互いの信頼関係も増す。それが自分の業務上の評価につながることを念頭に、出張しよう。

[日本経済新聞夕刊2016年4月4日付]