恋愛ドラマ、共感幅広く 生き方見つめ上の世代も狙う
テレビの恋愛ドラマが存在感を増してきた。4月からの各局の新ドラマにもラブストーリーが並ぶ。恋愛を通して生き方を見つめ、幅広い世代の共感を得ようとする作品が目立つ。
13日に始まる日本テレビのドラマ「世界一難しい恋」(毎週水曜午後10時~)。主演をアイドルグループ、嵐の大野智が務め、恋の相手を女優の波瑠が演じる。主人公は複数のホテルを経営する34歳の敏腕社長。年収は高く容姿も魅力的だが、恋愛には縁遠かった。初めて好きな人に出会い、変化していくさまをコメディータッチで描く。
臆病な主人公
若い世代を中心に人気の高いキャストだが、プロデューサーの櫨山裕子氏は「自分と同世代の50代に向けて作っている。ラブシーンもないかもしれない」と言う。主人公は恋に臆病で不器用だ。それでも、相手に思いを伝えようと奮闘する。「テーマは自分探し。同じような経験をしてきた人たちが、共感しながら温かく見守って、笑える作品にしたい」
櫨山氏はこれまでに「ホタルノヒカリ」(2007年)や「きょうは会社休みます。」(14年)など、恋愛に積極的でない女性を主役にしたドラマをヒットさせてきた。結婚や妊娠、仕事といった「自分が経験してきた痛みを伝えようとやってきた」という。「キラキラしたものだけを描いても私たちの世代は『嘘だな』と思う。実際の生活や環境をドラマに反映させたい」と語る。
TBSの新ドラマ「私結婚できないんじゃなくて、しないんです」(15日から、毎週金曜午後10時~)も恋愛にうとい女性が主人公のラブコメディー。39歳の女医、橘みやび(中谷美紀)は美しく、年収も地位もあるが、独身で恋人がいない。仕事を優先してきた女性が恋愛指南役の男性と出会うことで、一念発起し結婚と向き合っていく。
プロデューサーの新井順子氏は「今だからこそ描ける恋愛ドラマ」と言う。生き方が多様化し、結婚しない選択肢もある。「他人のほれたはれただけではドラマが作りにくい時代。視聴者が自分を重ねて応援したくなるような作品にしたい」(新井氏)という。「気づいたときにはめぼしい男性はみな結婚していた」といった同世代のリアルな声を随所に盛り込む。
月曜午後9時の「月9」枠を中心に積極的に恋愛ドラマを制作してきたフジテレビ。新ドラマ「ラヴソング」(11日から、毎週月曜午後9時~)は主演に福山雅治を迎えたヒューマンラブストーリー。夢破れたミュージシャンと歌の才能にあふれる若い女性との出会いから始まる物語だ。
主人公は40代で、音楽にも恋にも真剣になれない日々を過ごしている。プロデューサーの草ヶ谷大輔氏は「そうしたむなしさは多くの人が抱えているはず」と語る。世代を超えた触れ合いを軸に据えることで、幅広い層の関心を呼びたい考え。「好き嫌いだけでなく、人との出会いから人生を改めて見つめなおす過程を表現したい」
人生の一部として
近年の恋愛ドラマの傾向について、ドラマ評論家の成馬零一氏は「登場人物は年齢が高く、ダメな部分ももっている。恋愛ができない人を描いたものが増えている」と指摘する。かつては片思いや三角関係に焦点を当てた恋愛ドラマが若者の支持を集めた。しかし、10代、20代のテレビ離れが進んだ今、こうした作品に代わり、比較的年齢層の高い視聴者に向けて恋愛を人生の一部として描く作品が目立ってきている。
一方で昔ながらの恋愛ドラマの人気が落ちたとも言い切れない。映画では昨年、少女漫画を原作にした「ヒロイン失格」や「ストロボ・エッジ」などが興行収入20億円を超えるヒットを記録した。
テレビでも昨年放送された「恋仲」(フジテレビ)はネット配信やツイッターで大きな反響があったという。フジテレビのドラマ制作センター部長、金井卓也氏は「上の世代の共感も誘いつつ、10年後のドラマファンをどう育てるか。難しい課題だが工夫を続けたい」と語る。
(文化部 赤塚佳彦)
[日本経済新聞夕刊2016年4月4日付]
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