海洋アジアVS.大陸アジア 白石隆著日本の対外戦略を考える情報豊富

著者は東南アジア地域研究の泰斗であるだけでなく、幅広い分野をカバーする当代を代表する社会科学者の一人である。その著者が現代のアジア太平洋地域の情勢と日本のとるべき国家戦略を語った4回の連続講演に加筆修正したものが本書である。

(ミネルヴァ書房・2400円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

序章と第1章では、「東アジア/アジア太平洋/インド・太平洋」という幅のある地域設定の中で近未来を展望する。著者はリベラルな国際秩序の優位性や混乱した「Gゼロ」の世界観を主張する見方に対して、20世紀システムの変容という歴史的変化の文脈にこの地域の基本課題を見出(みいだ)す。特に2030年ごろまでは、米中を中心として行われる国家間の「力の均衡の政治」と「協力ゲーム」、情報革命がもたらすグローバル化、都市化、増大する期待の革命といった経済社会的変化が中心的な変数となると主張する。

第2章では米中の地域政策が検討される。オバマ政権のリバランス政策は20世紀システムをこの地域で維持する「庭仕事」の中で、中国の台頭に対する力の均衡の維持に比重がかかった形だと評価する。他方で中国はアメリカ主導のシステムへの「ただ乗り」から習近平政権になって独自の秩序を追求するようになり、経済力を背景に21世紀型の朝貢システムを作りだそうという姿勢を強めている。しかしこうした姿勢は近視眼的であり、中国に対する周辺国の警戒心を高める結果となっていると評価する。

第3章では著者の専門である東南アジア地域を分析の中心に据えている。タイ、ミャンマー、ベトナム、インドネシア、マレーシア、フィリピンについて、内政の安定度、経済成長の展望、米中との関係を中軸とする対外関係が各々(おのおの)異なっており、そうした中で各国がどのような国家戦略を追求しようとしているかが論じられる。

第4章ではこれまでの分析を踏まえ日本の国家戦略のあり方が論じられる。著者は昨年の安保法制に代表される「積極的平和主義」やインド・太平洋地域諸国との連携強化は変容しつつある20世紀システムの中で、この地域の自由主義的な国際秩序を維持拡大するところに日本の国益があることを見定めた合理的な反応と捉えている。

地政学的な分析の比重がやや大きく、都市化や所得格差、人口変化の分析がやや薄い印象はあるが、多数の文献とデータの引用を注意深く読みこなしていけばその主張は明瞭に理解できる。現代日本の対外関係を考える上で情報に富む作品である。

(京都大学教授 中西 寛)

[日本経済新聞朝刊2016年3月27日付]

海洋アジアvs.大陸アジア:日本の国家戦略を考える (セミナー・知を究める)

著者 : 白石 隆
出版 : ミネルヴァ書房
価格 : 2,592円 (税込み)