在宅専門の診療所登場 診療報酬4月改定、早期退院へ
薬局の競争促す指名制
投薬の重複防ぐ
「薬を早く用意して待ち時間を減らそう」「店頭のあいさつを徹底し、相談しやすい接客をしよう」――。日本調剤山手薬局(東京・目黒)は金曜の閉店後、薬剤師が店舗の改善策を話し合う。改定で新設される「かかりつけ薬剤師」を意識してのことだ。
かかりつけ薬剤師は患者から担当に指名された薬剤師。患者は自分専属であることを示す同意書にサインする。薬の管理を一手に引き受け、重複による無駄な投薬や危険な飲み合わせを防ぐ。指名されて対応すると、薬局の報酬は1回あたり700円増える。
半面、患者の窓口での自己負担は3割の場合で同210円増える。いわば「指名料」だ。負担増を覚悟で指名してもらうには、「薬剤師それぞれが患者への理解を深めて接客力を磨き、満足度を一段と高める必要がある」(日本調剤の深井克彦常務)。
大病院の目の前にある「門前薬局」では、基本報酬(調剤基本料)が今より2~5割低い200円に下がるところが出てくる。調剤大手で処方箋の95%超を最寄りの大病院から受け取るなどしている薬局が対象。厚生労働省は「立地に依存し服薬管理が不十分」とみる。収入減を補うためにはかかりつけ薬剤師の配置などが急務となる。
「条件が厳しすぎる」。医師が定期的に患者宅を訪れ、持病の症状などを確認して治療する在宅医療。入院から在宅への流れを促進しようと在宅専門の診療所が解禁されるが、早くも不満の声が漏れる。
患者のうち、半分以上が重症者や要介護3以上というのが条件。外来患者が訪れたときに備え、受け皿となる他の医療機関との提携も必要だ。在宅医療が大半を占める祐ホームクリニック(東京・文京)の武藤真祐理事長は「軽症の在宅患者だけを選ぶ診療所を排除したいのだろうが、条件を満たせるところは少ないのでは」と普及を危ぶむ。
専門診療所でなくても、在宅で末期がんの患者を治療したり、休日も訪問したりする診療所の報酬は増額される。在宅医療を手がける医師の増加が期待されるが、患者にとっては負担が増える場面もありそうだ。
病院はどう「在宅促進」に関わるのだろうか。患者一人ひとりの退院計画をたてる支援スタッフを置き、介護を含めて在宅療養の態勢を整えれば報酬が増える。一方で重症者向けの入院ベッドにもかかわらず、軽症者の利用が多いと認定が見直され報酬が減る。退院後はより多くの患者が他の病院でなく、自宅に戻るための改定も行われた。
はしご受診減らす
体調が悪いときは近くの診療所へ――。紹介状なしに大病院に行くと、窓口で5000円以上の追加負担を取られることになる。再診なら2500円以上だ。
大病院は多くの診療科がそろい、高度な医療機器も整う。ただ軽症の患者が集まれば待ち時間が長くなるなどして、重症患者が満足な治療を受けられなくなる恐れがある。医師や看護師らの負担も大きい。厚労省は「まずは診療所で受診」が定着すれば、1つの病気で複数の医療機関の治療を受ける「はしご受診」も減らせるとみている。
ただ患者が大病院を選ぶのは「診療所では不安だ」という思いの裏返しともいえる。改定で診療所は認知症患者や小児患者のかかりつけ医となれば報酬が増えることになった。幅広く、適切に診断することが求められそうだ。
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マイナス改定だが… 医療費 膨張止まらず
2016年度の診療報酬改定で、医師らが受け取る診察料は医療費ベースで前年度に比べ2000億円引き上げられることになった。日本医師会などが強くプラス改定を求めたためだ。一方、薬価は6000億円の引き下げ。年間販売額が1千億円を超えるなどした医薬品を追加値下げするルールもつくった。
これにより、診療報酬全体では前年度比1.03%(医療費ベースで4000億円)のマイナス改定となった。ただ医療費の膨張が止まるわけではない。改定額は高齢化に伴う患者の増加や高価な新薬の登場を想定せずに算出されているためだ。
高齢化で医療費は毎年1兆円近いペースで押し上げられている。すでに13年度に全体で40兆円に達した。国民皆保険の制度を維持していくためには、診療報酬のいっそうの引き下げは避けられそうもない。
(山崎純)
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[日本経済新聞朝刊2016年3月20日付]
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