フランス料理のマナーを知っていても、ケーキなどスイーツのマナーを知る機会は意外と少ない。美しく飾られたケーキのどこから食べ始めればいいのか、悩んだことはないだろうか。イチゴやサクラなど春ならではのスイーツが並ぶこの季節。美しい食べ方を身につけ、いつもより優雅なお茶の時間を楽しもう。
フォークはまず垂直に
「スイーツは人を幸せな気分にしてくれる嗜好品。作り手は、目でも楽しめるよう趣向を凝らす」と話すのは、「世界一美しい食べ方のマナー」(高橋書店)の著者の小倉朋子さん。食べる人も「パティシエの思いをくみ取って、見た目の美しさを保ちながら味わいたい」と指摘する。
ケーキを食べるとき、ナイフとフォークがあればナイフで切ってフォークで刺すなどして食べるのが基本。だが、フォークだけが出されることもあり、その場合、使い方がカギになる。
まず、イチゴのショートケーキなど一般的な三角形のケーキの場合。鋭角の方から一口ずつ切って食べる。フォークの先端をケーキに対して垂直に刺し、手前に倒すように横に向けて切り、刺し直して口に運ぶ。
フォークを横に入れた後、そのままスプーンのようにすくって食べる人は多い。「フォークは本来刺すためのもの。乗せて食べると落としやすいうえに、肘が横に出て、食べる姿勢が幼い印象に映る」(小倉さん)という。
タルトのように底が硬い生地のケーキの場合も、フォークの先端を垂直に入れて、ゆっくりと底の生地に刺す。刺し跡をなぞるようにフォークを横に入れるときれいに切れる。上に果物などが飾ってある場合、その間にフォークを入れれば、こぼれにくい。
パイ生地とクリームが層になったミルフィーユは、一気に切ろうとするとバラバラに砕けやすい。フォークを底まで刺さず、まずは上半分までにするのがコツ。フォークはケーキに垂直に刺すが「歯を1本だけケーキの外側に出し、横に寝かせて切るとパイ生地がつぶれず、クリームもはみ出しにくい」(小倉さん)。
サロン ド ルミエール(東京・目黒)を主宰し、英国式のティーマナーを教える石丸千佳子さんは「イギリスやフランスでは、ミルフィーユはナイフとフォークを使い、あらかじめ倒してから食べる」という。フォークだけできれいに食べるのが難しいなら、初めから英国式にするといい。
さて、食べ終わった後はどうしているだろうか。「スイーツは平皿で出されることが多いので、同席者からも食べ終わりの様子がよく見える」と小倉さん。最初に巻き取ったセロハンや敷紙は、皿の端に小さくまとめておく。フォークやナイフも皿にそろえて置く。フォークは腹側(曲線の内側)を上に向けると、皿を下げる時にも安定する。
コース料理をイメージ
華やかなデザートがずらりと並ぶスイーツビュッフェ。月替わりで約30種提供する京王プラザホテル(同・新宿)でも、「連日女性で満席になる盛況ぶり」(企画広報スーパーバイザーの石川綾子さん)。
様々なスイーツが並ぶビュッフェでは、あれもこれもと欲張りがちだ。だが、一度に何枚も皿を使ったり、縁からはみ出るほど盛りつけたりするのはマナー違反と覚えておこう。皿は一人一枚で少量ずつ盛りつけ、食べ終わるごとに取り換えれば美しい。何度運んでも構わない。
食べ方の順序はコース料理をイメージするといい。「前菜のように爽やかなゼリーなどから始め、クリームやチョコレート系、キャラメル系など甘味のしっかりしたものへと食べ進めると、それぞれの味わいが引き立つ」(石川さん)。
ケーキと一緒に味わいたいのが紅茶やコーヒーなどの飲み物。イギリスではスイーツよりも紅茶が主役になるという。石丸さんは「カップの持ち方をぜひマスターして」と助言。持ち手に指を入れがちだが、ひとさし指と親指で持ち手をつまみ、中指で支えて持つとエレガントだという。
型にこだわり過ぎる必要はないが、同席者や作り手への配慮を忘れず春のスイーツを味わおう。
(ライター 田村 知子)
[日経プラスワン2016年3月19日付]