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再現模型・補助器具 吹ける!理系式口笛奏法♪ 森幹男・福井大学准教授

2016/3/17付 日本経済新聞 朝刊

開発した口笛検定システムを使って吹き方を指導する筆者

 世の中には口笛を吹ける人と吹けない人がいる。勤め先の福井大学で学生にアンケートをとったところ、「曲を吹ける」「音は出るが曲は吹けない」「音も出ない」がそれぞれ3分の1ずつの割合だった。

 口笛は立派な楽器だ。だが問題がある。吹けない人に吹き方を説明するのがとても難しいことだ。なぜなら口の中は見えないから。つまり吹き方は感覚的にしか教えられないのである。

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■自慢の腕前通じず

 私の専門は音響学の分野だが、2007年から口笛の発声原理の研究に取り組んでいる。こうした研究は世界的に見てもあまりない。口笛はいかにして鳴り、どうすれば曲を吹けるようになるのか。その原理を科学的に解明しつつ、口笛の楽しさを世の中に広めていく。それが私のライフワークである。

 研究を始めたきっかけは05年。大阪で口笛コンクールが開かれることを知った。全国から腕に覚えありの口笛吹きが集い、美音と技術を競い合う。私は口笛にはちょっと自信があったから、ひとつ腕試しをしてみるかと挑戦した。

 テープ審査を通過した30人が集まり、予選が開かれた。自分の番が回ってきて、私は練習を重ねてきた「ルパン三世のテーマ」を朗々と吹いた。出来はまんざらでもなかったが、結果は敗退。自信を打ち砕かれて軽くショックを受けたが、コンクールへの参加を縁に、プロの口笛奏者である、もくまさあき氏と知り合ったことが私を研究へと導いたのだった。

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■難しい口頭での説明

 もく氏は教室を開き、口笛を指導していた。その様子を見たが、吹けない人に対して「ベロ(舌)を逆L字型にして下の歯の裏につけ、口をすぼませるのですよ」などと説明している。そう言われても要領がつかめない生徒もいる。なかなか大変そうなので、自分の専門を生かして何か協力したいと思った。

口笛の発生原理を分析する装置。手前の透明の箱が声道模型。

 まず口笛を吹くときの口の中の形がどうなっているか、声道模型を使って視覚的にとらえる必要があると考えた。声道模型とは様々な大きさの穴が空いたプレートを何枚も重ね、その穴のつながりによって音が体外に出るまでの道(喉から口腔(こうこう))の形を再現する器具だ。口笛を吹いている人の頭部をCT撮影したデータを模型化した。

 その模型に空気を送り込むと口笛と同じ音が鳴った。これを分析すると、口笛が鳴る仕組みがわかる。専門的な話はここでは割愛するが、音域や奏法によって異なる共鳴原理があることがこの実験によってわかった。

 舌を喉の奥に引っ込めて共鳴腔の容積を増やすと低い音が、反対に、舌を上あごの方に近づけて容積を減らすと高い音が鳴る。声道模型は実験用の器具なので、口腔内の形が誰にでもわかりやすく把握できる模型を作ろうと思っている。それを見ながら指導を受ければ、上達は早いだろう。

 口笛の練習を補助する器具も作った。もく氏は生徒に対し、同じ音を繰り返し100回吹く練習を課していたので、口笛の音だけを拾って回数をカウントできる機械を開発した。また口笛の技術を検定するシステムも実用化した。ピッチ(音の高さ)を判定し、正しい音を出せているかがわかるというものだ。これを使って口笛を指導したこともある。

 研究だけではない。私は口笛の魅力を多くの人に知ってほしいので、大学の口笛音楽サークルで、福井市内を中心にライブをしている。現在メンバーは10人ほどいる。

 アンサンブルの問題は音域だ。口笛の音域はピッコロに近い。最大で4オクターブ出す奏者もいるが、いかんせん低音に限界がある。次の研究開発のテーマは口笛のピッチを下げるエフェクター(音響装置)の開発だ。実現すればベースパートを加えられ、より豊かな響きを奏でられるだろう。

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■楽器なくても楽しめる

森幹男さん(福井大学准教授)

 口笛にこれほど入れ込むのは、少年時代の経験があるからかもしれない。私は音楽が大好きな子供で、ブラスバンドをやりたかった。だが楽器は高く、親に買ってもらえなかった。その代わりリコーダーとハーモニカは極めるほどに練習したが、楽器というのは不平等なものだな、とちょっぴり寂しい気持ちになったのを覚えている。

 その点、口笛は平等な楽器だ。豊かな人も貧しい人も関係なく、1人に1つずつ与えられている。1人で吹いても楽しいが、仲間と合奏を楽しむ人が増えたら素晴らしいことだ。これからもその手伝いをしていければと思っている。(もり・みきお=福井大学准教授)

[日本経済新聞朝刊2016年3月17日付]

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