英国、EUから抜けるかも? 6月に国民投票へ

イチ子お姉さん 英国が欧州連合(おうしゅうれんごう)(EU)から抜(ぬ)けるかもしれないわ。EUに残るか抜けるか、6月に国民投票で決めるってキャメロン首相が発表したの。
からすけ 環太平洋経済連携協定(TPP)など、世界では仲間を増やす話はよく聞くけれど、なぜ抜けたいんだろう。EUから抜けて困らないのかな?

移民に仕事奪われ不満

イチ子 英国ではロンドン市長がEU(キーワード)から抜けることを支持したそうよ。世論調査でも「抜ける」と「残る」が同じくらいになってきたの。どうなるか分からない情勢ね。

からすけ なぜ抜けたいと思う人が増えているの?

イチ子 移民問題が大きいといわれているわ。経済が好調な英国にはEU域内の国から多くの移民が来ているの。例えば英国に住むポーランド人は2004年からの10年間で10倍になったらしいわ。移民が増えて仕事が奪(うば)われたと不満が高まっているの。

からすけ 何で増えたの?

イチ子 04年にEU加盟国が一気に増えたの。それまで15カ国だったのが25カ国になったわ。チェコやハンガリー、ポーランドなどの東欧諸国が加わったの。所得の低い東欧から仕事を求めて英国に殺到(さっとう)したってわけ。

からすけ 入国を制限すればいいんじゃないの?

イチ子 それが簡単にはできないから問題なの。EUは加盟国の間でモノや人が自由に移動できるように、という考え方で生まれたからよ。EUに加盟している限り移民を抑(おさ)えることは難しい、と考える人が増えてきたのね。

からすけ EUって前はECと言ってたような……。

イチ子 よく知ってるわね。1967年にEC(欧州共同体)として発足したの。それが93年にEUになったのね。さらにさかのぼると、52年に発足した欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)がルーツといわれているわ。資源を巡(めぐ)る争いをなくして欧州を平和にする狙(ねら)いがあったようね。最初はドイツやフランスなど6カ国で始まったの。英国が加盟したのは73年のことよ。経済的にメリットがありそうって考えたかららしいわ。

からすけ 最初からじゃないんだ。

イチ子 そこがドイツやフランスとの温度差を生んでいるともいわれているわ。英国は経済的なメリットだけを求めているって。実は英国は75年にも一度、ECから抜けるかどうかを国民投票で決めているの。当時は「英国病」なんて言葉もあったほど経済状態が悪かったから、残った方が有利と判断したみたい。

からすけ 国民投票までしたのか。

<キーワード>
EU 加盟国は28カ国で約5億人の人口を抱える。域内総生産(GDP)は世界全体の20%を超え、米国を上回る。
シェンゲン協定 国境検査を撤廃(てっぱい)する協定。EUの大半が参加し、いったん域内に入れば自由に移動できるようになる。英国は不参加。

6月に国民投票 賛否問う

イチ子 英国はEUの中でも特殊な立場なの。通貨はユーロを使わずポンドのままだし。国境をまたぐときのパスポートチェックを省く「シェンゲン協定(キーワード)」に参加していないなど、特例を認めさせているの。それでも不満が収まらないようね。

からすけ 移民のほかにも問題があるの?

イチ子 ユーロ危機のあと、EUは危機がまた起きないように銀行などへの規制を強めようとしているの。例えば今議論している金融取引税は、株の取引に税金をかけるって話。世界の金融センターとして発展してきた英国は大反対ね。ユーロを使っていないのにとばっちりを受けたと感じる人もいるみたい。EUに足を引っ張られるより、中国など成長しているアジアと手を組んだ方がいいという意見もあるわ。

からすけ もし英国がEUから抜けたらどうなるの?

イチ子 英国はEU加盟国の中でドイツに次ぐ経済大国よ。域内の国内総生産(GDP)の16%を占めているの。EUは市場を大きくすることで域内の経済活動を活発にしてきたから大打撃ね。EUに不満を持つ他の加盟国が騒(さわ)ぎ出して、EUが不安定になることも考えられるの。ヨーロッパの団結力が少し弱まる可能性もあるかもしれないわ。

からすけ 英国にとってはどうなの?

イチ子 英国の輸出の半分はEU向けなの。EUから抜けたら加盟国向けの輸出に税金がかかるようになるわね。新しく貿易協定を結ぶ必要があるけど、時間もかかるし今よりは条件が悪くなるでしょうね。輸出手続きも面倒(めんどう)になるから、企業が本社を移す可能性がある。企業の英国離れが進んで、GDPを数%押し下げるともいわれているわ。

からすけ 何だか抜けるのも残るのも大変だ。

イチ子 キャメロン首相は残留を呼びかけているの。抜けた場合に英国が負うリスクを訴えているのよ。いざ抜けるとなると、世界への影響も大きそう。6月の国民投票はかなり注目されそうね。

■国の貧富の差 溝を生む

灘中学校・高等学校の藪本勝治先生の話 今から約百年前。夏目漱石は、3年間の英国留学中に「個人主義」について考察を深めました。後に、個人主義とは他人を顧(かえり)みずに自己主張することではなく、他者を自分と同じように尊重する態度だと説いています。漱石はまた、短編集「夢十夜」で、前世で男に殺された異人がその男の息子に生まれ変わり恐怖(きょうふ)をもたらす話を書いています。不気味さにぞっとしますが、異人への仕打ちは自分に返ってくる、という教訓も読み取れそうです。
そして現在。EU圏(けん)では、英国などの豊かな国が貧しい国や難民に対する支援の負担を求められ、不満が募っています。理解できる一方、個々の人々に思いを致せば、貧しい国に生まれたがために苦境を強いられるのも理不尽(りふじん)に思われます。漱石に思索(しさく)を促(うなが)した英国の個人主義は、他国や難民との関係において、どんな態度を表明するのでしょうか。
今週のニュースなテストの答え 問1=自転車、問2=5割

[日経プラスワン2016年3月12日付]