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台湾新総統どんな人? 初の女性、「縁故」なしでトップに

2016/3/7 日本経済新聞 夕刊

台湾で、蔡英文氏が初の女性の総統になるそうね。一体、どんな人なのかしら。中国と台湾の関係にも、何か影響が出てくるのかな。

台湾の新総統に就任する蔡英文氏について、入江幸子さん(42)と伊東美穂さん(39)が飯野克彦編集委員に話を聞いた。

台湾の新しいリーダーはどんな人ですか。

「5月20日に女性初の総統に就任します。国際法が専門の学者出身で台湾大学を卒業後、米コーネル大学に留学し、英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで博士号を取得しました。27歳の若さで台湾の公立大学の副教授(准教授)となりました。政治への関わりは、世界貿易機関(WTO)加盟のための交渉の時期に国際法の知識を見込まれ政府の顧問になったのがきっかけです。10年以上も顧問を務め、実質的に総指揮のような立場でした」

「当時の台湾は国民党の李登輝総統の下で民主化が進み、中国大陸との関係をどうしていくかを模索し始めた時期でした。対中政策の検討に蔡氏も深く関わりました。そうした背景があり、2000年に初の民進党政権ができると対中政策担当の閣僚に任命されたのです。その後は民進党との関係が深まり、08年に民進党が下野した後、立て直しを託され同党の主席に就きました。前回12年の総統選で敗れ、いったん退きましたが、2年前、同党の歴史上、最高の得票率で主席に返り咲きました。そして今年1月16日の総統選で国民党などの候補に圧勝しました」

アジアで女性のリーダーは珍しくありませんか。

「アジアでは女性リーダーが少なくありません。1960年にセイロン(現スリランカ)首相にシリマボ・バンダラナイケ氏が就任しました。それ以降、例えばインドのインディラ・ガンジー氏、フィリピンのコラソン・アキノ氏やグロリア・アロヨ氏、インドネシアでもメガワティ・スカルノプトリ氏らがトップを務めました。韓国の朴槿恵大統領もそうです」

「蔡氏が異色なのは、身内に政治家がおらず、『縁故』なしにトップに上り詰めたアジア初の女性であることです。そもそも現在の東アジアのリーダーは、日本の安倍晋三首相にしろ中国の習近平国家主席にしろ、親が政治家という人たちが目に付きます。その意味で、蔡氏は東アジアの政治に新しい風を吹き込むことになります」

蔡政権の誕生で、中台関係はどうなりそうですか。

「中国側は基本的に蔡氏を警戒しています。08年に就任した国民党の馬英九総統は台湾と中国大陸の関係について『一つの中国』とする原則を認めてきました。それがあったので、この8年の間に中台関係は随分と良くなりました。ただ、台湾内では中国に近づきすぎることを警戒する気分が高まりました。民進党は『一つの中国』を認めておらず、今回の選挙で圧勝した一因は台湾の人たちの対中警戒感の高まりでした」

「一方の中国側は、台湾はあくまで中国の一地方である、との立場です。蔡氏は今回、中国との関係は現状維持を公約にしましたが、中国側は蔡氏について、本音は独立派ではないか、との疑いを持っています。『一つの中国』の原則で何とか折り合いをつけられれば関係は安定するでしょうが、そうでないと中国共産党が揺さぶりをかける可能性も出てきます。例えば大陸に進出した台湾企業を通じて圧力をかけるようなことです。ただ、うかつに圧力をかけたりすれば、台湾の人々の心はさらに大陸から離れていくでしょう」

中台関係は今後の日本にどんな影響を与えそうですか。

「中台関係の緊張は日本経済にとっても好ましくありません。中国大陸で100万人を雇用しているといわれる台湾の鴻海精密工業がシャープの買収に名乗りをあげているように、日本と台湾、中国の経済関係はとても緊密で複雑なものになっています」

「日本として考えなくてはならない問題の一つは、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加を台湾が希望していることにどう対応するか、です。中国は日本や米国などが台湾と政府間協定を結ぶことに反対を表明しています。TPPは中国に対する包囲網だとのとらえ方が共産党政権内にはあり、台湾が参加すれば中国は強く反発する可能性があります。日中関係や米中関係にも深刻な影響を引き起こしかねません」

■ちょっとウンチク
民進党の世代交代を象徴
総統選と同時に投開票のあった立法委員(国会議員に相当)選でも、民進党は議席の6割を獲得して大勝した。同党が立法院で単独過半数を占めたのは初めて。陳水扁総統ひきいる初の民進党政権(2000~08年)が少数与党の苦汁をなめ続けたのに比べ、蔡政権は格段に有利な環境で船出する。
民進党はもともと、国民党の独裁体制にあらがって民主主義を求める人たちが集まって結成した政党だ。中枢を占めてきたのは、かつての民主化の闘士たち。国民党政権下の公立大学で研究者となり、国民党政権の対外交渉の顧問をつとめた蔡氏は、民進党の従来のトップとは異質だ。同党の世代交代を象徴する指導者といえる。
民進党と国民党の対立は、戦前から台湾で暮らす「本省人」と戦後に大陸から移ってきた「外省人」の間の「省籍矛盾」を多分に反映している。蔡氏は本省人だが、その経歴は省籍矛盾を超越している印象もある。次期総統として台湾の人々の「団結」を最重視するのも、こうした背景があるからだろう。
(編集委員 飯野克彦)
■今回のニッキィ
伊東 美穂さん 住宅関連メーカー勤務。クラウドファンディングの勉強を始めた。「文化財に指定されていない古い建物の保存・維持ができないか考えています」
入江 幸子さん 金融機関勤務。今月、2週連続でハーフマラソンに参加する。「出身地で開かれる大会では、応援してくれる旧友や家族に元気な姿を見せたいです」

[日本経済新聞夕刊2016年3月7日付]

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