マンモスのつくりかた ベス・シャピロ著「脱絶滅」の可能性と難しさ

子供の頃、絶滅した動物……例えば恐竜の数々、マンモスやドードーを図鑑などで見て「実物を見たい」と思った人は多いだろう。評者は、さすがに恐竜はご免こうむりたいが、ドードーはかわいいかもと夢想した。

(宇丹貴代実訳、筑摩書房・2200円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

そうした夢が原動力なのだろうか。絶滅したマンモスを「脱絶滅」しようとする研究者が数多くいる。進化生物学者であり、古代DNA解析の専門家である著者もそのひとりだ。

荒唐無稽に思えた夢は、このところの生命科学の発展により、近い将来に可能になるという。マンモスを「脱絶滅」し、野生のマンモスパークを作ることができるというのだ。

なぜ、マンモスか? 仮に復活しても、マンモスに適した環境は北極地であり、他の生体に影響を及ぼす可能性が低いと考えられるからだ。

マンモスの脱絶滅を研究する著者ではあるが、単に「絶滅した生物を復活させたい」という狭い視野にとらわれた能天気な書ではない。彼女の見据える射程の範囲は広く、マンモスの復活後に生息する環境はあるのか、野生に放すことができるのか、既存の生態系への影響などを冷静に記している。

この見方は、現在の生物多様性や絶滅危惧種の保護に対する議論に大きな一石を投じるだろう。また、絶滅した種を復活させる科学者は「神を演じている」のではないかと考え続ける。一歩引いた視点での、著者の自問自答に引きこまれる。

本書の魅力は、こうした著者の立ち位置だけではない。DNAなど生命科学の基本をおさらいすることができ、現在発展している再生医療のわかりやすい教科書、解説書となっている。

古代生物のDNAを取り扱う研究者の実験室での姿や、フィールドワークの苦労を生き生きと描いたドキュメンタリーでもある。マンモスの化石を採取したとしても、古代の生物であるため、そのDNAはコンタミネーション(汚染)されている可能性が高い。発見されるまでに腐敗の原因となるDNAが含まれている場合もある。コンタミネーションを防ぐため、研究者は念入りに滅菌した状態で資料を扱う。そのマンモスの標本を探すためには、極寒の地に赴く必要がある。古生物DNA研究者の奮闘ぶりに頭が下がる。

科学の力で絶滅した生物を復活させることは可能であろう。でも、子供の夢で済まされない問題が数々あり、それを解決するには多くの人々の知恵を結集させなければならない。

(サイエンスライター 内田 麻理香)

[日本経済新聞朝刊2016年3月6日付]

マンモスのつくりかた: 絶滅生物がクローンでよみがえる (単行本)

著者 : ベス シャピロ
出版 : 筑摩書房
価格 : 2,376円 (税込み)

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