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映画レビュー

ロブスター管理社会での愛と孤独

2016/3/6

映画レビュー

少子化による近未来なのか、たんなる寓話(ぐうわ)的な物語なのか、独身者の存在を許さないという社会を描いた奇天烈な映画だ。屋敷から外の世界に出ることが禁じられた子供を描いた「籠の中の乙女」で知られるギリシャ出身のヨルゴス・ランティモス監督の初の英語作品である。

郊外にある独身者を収容するホテル。この施設では独身者を矯正してカップルにするため、45日以内に収容者の誰かとカップルになること、期限を過ぎると動物に変身させられること、脱走した独身者を麻酔銃で撃つと1人につき1日だけ期限が延長されることなどの規則が課せられた。

そんな施設に、妻に逃げられたデヴィッド(コリン・ファレル)が兄と呼ぶ犬と一緒に収容される。施設の規則や人々に次第に慣れた彼は、やがて冷酷無比な心のない女とカップルになる。ところが、女が犬の兄を殺したことで涙を流したため、デヴィッドは女に攻撃され森の中に脱走する。

この奇想天外な世界は、人間関係を巧(うま)く築けない人は落伍(らくご)者とみなされるのかという監督の人間観察から導かれた愛と孤独についての世界といわれるが、その背景には徹底した管理社会があり、G・オーウェル「1984年」に通じるイギリス的なブラックユーモアが色濃く漂っている。

後半は森の中の独身者の集団が描かれるが、そこは真逆の世界が展開される。カップルになることを阻む掟(おきて)が支配し、恋愛は禁止され、ダンスも1人で踊らなければならない。そんな世界でデヴィッドは近視の女に心を惹(ひ)かれ、やがて相思相愛になる。

都会と森、カップルとシングルの図式的な対立の中で主人公の運命は漂うが、ギリシャ神話のオルペウスとエウリュディケや谷崎潤一郎の春琴と佐助などを想起させるラストでは愛の絆の尊厳を浮き彫りにする。1時間58分。

★★★★

(映画評論家 村山 匡一郎)

[日本経済新聞夕刊2016年3月4日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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