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政府からの要請もあり、携帯電話各社が新しい料金プランを発表したわね。携帯の料金体系ってわかりにくいけれど、今までより割安になったのかしら。

携帯電話料金をテーマに、大石聖子さん(50)と伊藤みどりさん(44)が村山恵一編集委員に話を聞いた。

政府が料金見直しを要請したのはなぜですか。

「安倍晋三首相が2015年9月の経済財政諮問会議で携帯料金の家計負担の軽減が大きな課題だと発言したのがきっかけです。総務省の調査で04年と14年を比べると、消費支出総額は月平均33万1636円から31万8755円に減りましたが、移動電話通信料は8217円から1万2279円に増え、家計に占める比率は上がっています。有識者会議の検討を経て総務省は昨年12月、具体的な施策をまとめました。1つ目が、利用者の要望や実態に合ったスマートフォン(スマホ)料金プランの導入による負担の軽減です。2つ目は、端末が実質ゼロ円になる購入補助など行き過ぎた販売の適正化。3つ目が、『格安スマホ』を手がける仮想移動体通信事業者(MVNO)のサービスを多様化し競争を促すことです」

「他の主要国に比べて低いスマホの普及率を高めるねらいがあります。総務省によると、14年時点で日本は53.5%なのに対し、シンガポールは93.1%。普及率が低いとスマホを社会共通のインフラとして活用しにくく、インターネット時代のグローバル競争で後れを取りかねないとの発想です。野村総合研究所の専門家は、国際的にみて日本の料金が高いとは一概に言えないものの、スマホをよく使うヘビーユーザーを優遇する傾向があると指摘します。あまり使わない人に割高感があり、不公平の是正が必要との見方です」

携帯各社は政府の要請を受けどんな対応をしているのですか。

「KDDI(au)とソフトバンクは、1ギガ(ギガは10億)バイトのデータ通信と通話で月4900円というプランを発表しています。これまでは一番安いプランが6000円台でした。NTTドコモは、家族で5ギガを分け合い、家族3人なら1人当たり月4500円になるプランを打ち出しました」

「各社は実質ゼロ円の端末販売も取りやめに動いています。ただ、ソフトバンクグループの孫正義社長は『けしからんというので変えるが、ユーザー目線で考えれば議論のあるところ』との認識を示しています。今回の端末価格の見直しが、どんな影響をもたらすのか見通しにくいのが実情です。総務省の研究会が07年にまとめた報告書に基づき、携帯大手が端末の割引がない分、通信料金が安いプランを追加したときには、端末の買い控えが起き、日本の端末メーカーが苦境に陥って業界再編につながりました。今回のゼロ円端末の廃止で浮いた費用が値下げという形で利用者に還元されるのか、注視する必要がありそうです」

消費者にとって改善といえるのですか。

「電気とセットで契約すると安くなる、25歳までなら『学割』になるなど、さまざまなメニューが登場しています。ただ、料金体系がより複雑になっている印象は否めません。結局、自分の場合はいくらで、どのくらい得なのか、すぐに理解できる人は少ないでしょう。いまのところ、一連の料金見直しで恩恵を受ける利用者は限定的であり、料金体系全体の改善という意味では道半ばといえます」

料金体系を巡る今後の課題は何ですか。

「野村総研によると、米国では料金体系の簡素化が進んでいます。例えば携帯最大手のベライゾン・ワイヤレスでは、端末は端末で買い、データ通信や通話のプランを好みに応じて選びます。たくさんデータ通信をするなら18ギガで月100ドル、1ギガで十分なら月30ドルといった具合です。日本でも、わかりやすいサービスのしくみや、料金体系が必要ではないでしょうか」

「携帯会社は、単純な価格競争に頼りきるのではなく、特色ある端末やサービスを競うことも重要です。格安スマホを展開するMVNOは、安さ以外の武器も欠かせません。普及率はまだ2~3%ほどですが、大手3社の戦略に影響を与えるような斬新なサービスを提供できれば、格安スマホの普及率の上昇に加え、日本の携帯市場の変革にも役立つはずです。健全な競争の促進によって利用者の選択肢が広がり、料金も下がる。そんな姿をめざすべきでしょう」

ちょっとウンチク


IT、日本企業の影薄く
 2007年のモバイルビジネス研究会、14年のICTサービス安心・安全研究会……。携帯電話の料金体系や販売奨励金を巡っては、国の有識者会議が報告書をまとめ、通信業界が問題解決に向け対応するということを繰り返してきた。それでも「複雑でわかりにくい料金」は残る。扱う端末やサービスが似通い、各社が割引など値段勝負に走りやすい構造を映す。
 振り返れば、多様な端末、サービスを生み出す競争が活発だった時期もある。NTTドコモが1999年に始めた「iモード」は、携帯でネットを利用するという新市場を掘り起こした。皮肉にも、いまスマートフォン産業を主導するのはiモードを手本にした米国勢だ。革新の担い手として日本企業の影は薄い。
 電子情報技術産業協会によると電子情報機器やサービスの世界生産額は10年前の1.5倍になるが、日本企業の生産は約1割減る。国はIT(情報技術)を使いこなし成長エンジンにする目標を掲げるが、理想と現実のギャップは大きい。
(編集委員 村山恵一)

今回のニッキィ


伊藤 みどりさん プログラマー。猫好き・読書好きが高じ、気が付けば猫に関する本が500冊になっていた。「皆さんの役に立つ蔵書の活用法を考えています」
大石 聖子さん 行政書士。月3回はゴルフコースに足を運ぶ。ただ、スコアがなかなか100を切れないのが悩みの種だ。「今年こそは95を目標に頑張ります」
[日本経済新聞夕刊2016年2月29日付]

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