断食芸人
反逆のにおいと寓話の味
足立正生は異彩をはなつ経歴の映画作家である。
1960年代に、前衛映画の雄として「鎖陰」(63年)、「銀河系」(67年)で注目される一方、若松孝二のピンク映画プロダクションで脚本家、監督として尖鋭(せんえい)的な主題をもつピンク映画を世に送る。70年代にはいり、パレスチナ解放人民戦線に参加し、日本赤軍と合流、国際指名手配される。
97年にレバノンで逮捕。2000年に刑期満了、日本に強制送還された。「幽閉者 テロリスト」(07年)で映画作家として復帰。
「断食芸人」はそれ以来の新作となる。カフカの同名の短篇(たんぺん)小説が原作。
津波が海辺の町をおそう映像からはじまる。原発らしき施設が炎をふきあげ、「2011年3月14日 福島第一原発で核爆発(ヽヽヽ)が発生」と字幕(傍点筆者)。そういう状況下の日本。
断食芸人とは、カフカの時代のヨーロッパには実際にいたというが、日本では聞いたことがない。だが、見世物小屋の写真のモンタージュ等で、映画はこれをかつて実在したものとする。
とあるアーケード商店街のすみに、一人の男がふらっとすわりこむ。「ばかのハコ船」(02年)等の山下敦弘監督作品で、有能ならざる人の存在感を印象的に表現した山本浩司(ひろし)である。
何もせずに、じっとすわりこんだ男の存在が、人々の反応を誘う。どけと言う掃除係。写メを撮ってSNSにのせる子ども。取材にくるテレビ。男は何もせず、何も口にしない。何かの抗議行動かと思う者もいる。
騒ぎはひろがり、奇妙奇怪な連中があつまる。アングラ系演劇の役者たちが大挙出演、60年代のにおいを随所にはなつ。国家体制への反逆のにおいもまた強烈にたちこめる。
「何者でもないがゆえに何者かになりつつある」断食男。哲学的な寓話(ぐうわ)の味がのこる。1時間44分。
★★★★
(映画評論家 宇田川 幸洋)
[日本経済新聞夕刊2016年2月26日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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