ヘイトフル・エイト娯楽の作法究め原点回帰

2016/2/27

映画セレクション

クエンティン・タランティーノ監督の最新作。アカデミー脚本賞を受賞した前作『ジャンゴ 繋がれざる者』に続く西部劇で、密室内でのミステリーというのがミソ。2時間48分の長尺だが、物語にたえず捻(ひね)りをきかせて、まったく飽きさせない。堂々たる娯楽映画の名人芸を楽しめる。

舞台はロッキー山脈の裾野の孤立した軽食屋。吹雪が猛威をふるう。そこに馬車が到着し、4人の客が入ってくる。クールな黒人の賞金稼ぎ(サミュエル・L・ジャクソン)と、見るからに野蛮そうな白人の賞金稼ぎルース(カート・ラッセル)。ルースは、1万ドルの賞金がかかった不敵な女強盗ドメルグ(ジェニファー・ジェイソン・リー)を連れている。もう一人は、近隣の町の新任保安官と自称するマニックスだ。

軽食屋には4人の男がいた。店を切り盛りするメキシコ人、絞首刑執行人だという紳士、いかにも怪しいカウボーイ、年老いた南部の元将軍。いずれも一癖ありそうな面々で、このなかにドメルグを奪回しようとする強盗団の仲間がいても不思議ではない。疑心暗鬼の探りあいのなか、コーヒーを口にしたルースが、血を吐いて倒れる……。

冒頭の雪中のキリスト磔刑(たっけい)像をとらえた長回しの画面から、タランティーノの映画特有の祝祭的高揚感があってわくわくさせられる。あとは物語の興味で最後まで引きこまれる。

脚本の巧(うま)さに加えて、密室劇なのに70ミリという超横長の画面を用いて、空間の奥行きと広がりを作りだしている。種田陽平の美術も、この独創的な空間造形に大きく貢献している。

考えてみれば、これはタランティーノが娯楽作法を完璧に身につけた上で作り直した『レザボア・ドッグス』なのだ。悪い奴らの思惑と推理が絡みあう、殺人とサバイバルのゲーム。原点に返った一作といえるだろう。

★★★★

(映画評論家 中条 省平)

[日本経済新聞夕刊2016年2月26日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…