いま健康的な人は将来も病気になったりそれによって死亡したりするリスクが低いため、保険金を支払う可能性も低い――。そうした考え方に基づき一定の基準を満たす人に対して通常より安い保険料を設定する保険会社や保険商品がある。
健康状態により保険料に差を付ける仕組みはこれまで、一定期間内に死亡すると保険金が下りる定期保険で多かった。最近は収入保障保険や医療保険、終身保険などにも広がっている(表)。主契約である保険に特約を付加する形で割引の適用を受けることができる。
割引条件は保険会社や商品によって異なる。大きく分けると2つの方法で健康状態をチェックする仕組みになっている。
ひとつは喫煙の有無だ。たばこを過去1年間(保険会社によっては2年間)吸っていなければノンスモーカーとみなし、喫煙者よりも保険料を優遇する。非喫煙者であることを確認するために専用器具を使って唾液の検査をするのが一般的。たばこの成分であるニコチンから変わったコチニンという物質が体内にあるかどうかを調べる。
健康チェックのもうひとつの方法は、いくつかの数値基準を満たすかどうかで判断するやり方だ。例えば血圧値が基準を満たしていれば、おおむね健康であるとみなす。血圧のほかによく使われるデータが、BMI(ボディー・マス・インデックス)。肥満・やせすぎ度を示す指標で、体重(キログラム単位)を身長(メートル単位)の2乗で割って求める。
血圧値やBMIは加入申し込み時に提出する健康診断書(写し)によって確認されるのが一般的だ。基準値を公表していない保険会社もあるが、例えば三井住友海上あいおい生命の収入保障保険は、血圧が「最高値139以下でかつ最低値89以下(単位はともにmmHg)」、BMIが「18以上27以下」という条件を満たす必要がある。これら以外にもチェック項目を設ける保険会社もある。
表をみると、商品や特約によってチェック項目が異なったり、付加できる特約が複数あったりして違いがあるので、よく確認しよう。
例えばソニー生命保険の定期保険はノンスモーカーであれば割引をするというシンプルなパターンだ。保険料はどれくらい安くなるのか。例えば35歳男性が保険金額5000万円(保険期間、保険料払い込み期間はともに60歳まで)という条件で契約する場合、通常の保険料は1万8350円。これに対して非喫煙者は1万4800円なので、保険料は約20%安くなる。
損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険の収入保障保険は、割引率に段階がある。「ノンスモーカーか喫煙者か」「BMIや血圧値が基準を満たす健康体か、そうではない標準体か」によって健康ステージを4つに分け、それぞれに保険料を定める仕組みだ。
40歳男性が、死亡時の保険金月20万円(保険期間、保険料払い込み期間ともに60歳まで、最低保障期間2年、平準払い)という条件で加入するときの保険料をみてみよう。通常の契約だと保険料は月7400円だ。これに対して「喫煙者健康体」に分類される人は7180円と3%安い。「非喫煙者標準体」に入ると5920円で割引率は20%。さらに「非喫煙者健康体」にあてはまれば保険料は5080円となり、割引率は31%となる。
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定期保険のように一定期間ごとに契約を更新する保険は少し注意が必要だ。更新時に改めて検査が必要になる保険会社と、告知や検査なしで更新できる保険会社とに分かれる。
仮に更新時の再検査で割引が受けられなくなると、年齢が上がって保険料が高くなっていることと併せて保険料が大きく上がる可能性がある。最初に加入するときは更新時の扱いについて確認しておきたい。
非喫煙割引を受けるときに気をつけたいのが「受動喫煙」だ。自分自身はたばこを吸わなくても、周囲に喫煙者がいると副流煙の影響によってコチニン検査で喫煙反応が出ることがある。そうなると、非喫煙者割引は受けられない。
非喫煙者割引を受けて加入した後にたばこを吸い始めても、特にペナルティーはないという保険会社が多いようだ。加入後の喫煙まではチェックしにくいということらしいが、たばこを吸わずに健康維持に努めれば病気になりにくく結果として医療費が節約できるだろう。
いくら割引基準をクリアしていても他に健康上の問題があれば、そもそも契約できないことがある点は要注意だ。当然ながら、保険の必要性や保障額、保障内容はしっかりチェックすることも大切になる。
(ファイナンシャルプランナー 馬養 雅子)
[日経プラスワン2016年2月20日付]