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多国籍化する日本の学校 佐久間孝正著 教育グローバル化の課題を検証

2016/2/14付 日本経済新聞 朝刊

日本の教育現場に、外国人の子どもや国際結婚家族の子どもなど「外国につながる子どもたち」が多数入っている。言葉、習慣、宗教の異なる国から来た子どもの中には、宗教的理由によって豚汁が食べられない子もいる。食器を手に取らない文化の子もいる。画一的な給食指導では対応できない。日本の教育現場は急速に「多文化」化、多国籍化している。その結果、これらの子どもに日本語を教える教員の不足や学力保障など、教育課題は多い。本書は、この現象を「教育グローバル化」と呼ぶ。

(勁草書房・2800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

「教育グローバル化」は今後、ますます強まるだろう。なぜなら少子化、労働力不足に直面している日本に、中国や東南アジア諸国から多数の入国者の流入が予想されるからだ。イギリスは移民やその子どもたちを多数受け入れてきた結果、アフリカ、東欧など非ブリティッシュ系住民が増加し、そのマイノリティへの教育的対応に迫られた。著者は、ロンドンと東京の学校の多国籍化を比較し、東京がロンドンの現状を後追いしていると分析する。だからこそ、学校の多国籍化は、近い将来の日本を予見するという。

国際都市東京の対応は、この点についてほとんど無策である。日本語教育の専門家を教員として採用することや、これらの子どもの「就学の義務化」を本気で考える時期に来ていると、改めて思う。

「教育グローバル化」は大学にも及ぶ。政府は大学の国際展開力の強化をめざし、スーパーグローバル大学という拠点校方式を打ち出している。それらの大学では留学生の増加、英語による授業数の増加、秋入学や4学期制が議論され、世界の大学ランキングの上昇をねらう。英語力のある人材を求める企業も少なくない。政府は小学校からの英語導入を推進している。

しかし、英語導入だけでグローバル社会に対応できる人材の育成につながるのか、著者は懐疑的である。むしろ課題は、初中等教育から高等教育まで、知識暗唱型教育を脱し、思考力育成・批判力育成型の教育をどう築くかであり、そのための教員や教員養成のあり方である。加えて、ナショナリズムを礎とする「国民教育」から、グローバル化に即した「市民性教育」への転換こそ必要であると、著者は主張する。

本書は、保育園から大学までの多国籍化の現状を、「教育グローバル化」という視点で捉え、日本の教育の全体像を提示した点で傑出している。グローバル化が日本の教育界に与える影響は、まさに「衝撃」と呼ぶにふさわしい。

(早稲田大学教授 川上 郁雄)

[日本経済新聞朝刊2016年2月14日付]

多国籍化する日本の学校: 教育グローバル化の衝撃

著者 : 佐久間 孝正
出版 : 勁草書房
価格 : 3,024円 (税込み)

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