今夜はお燗 家で上手につけるには

立春を過ぎても寒い日は続く。おいしい魚介類が豊富な冬の食卓に合うのが、日本酒を好みの温度に温めた燗(かん)酒だ。燗をすることで酒の味わいが花開き体も温まる。冷酒に比べて一気に飲み進めないので体にも優しい。家で手軽にできる方法を専門家に尋ねた。新たな日本酒の魅力を発見しよう。

火止めてから湯の中へ

燗をつける酒蔵レストラン宝の中沼千秋さん。「合う料理を探す楽しみも広がる」(東京都千代田区)=写真 遠藤 宏

ほんのり湯気の立つお燗。絶妙な温度の燗酒は、刺し身や鍋など料理を引き立たせてくれる。店で飲んで「おいしい」と思っても、家庭のお燗は何かと面倒。電子レンジで温度設定せずに加熱し、熱すぎることはないだろうか。

「難しく考えなくてもお燗は楽しめる」と話すのは、利き酒師で「女性のための美味しく楽しい日本酒講座」(NHKカルチャー横浜ランドマーク教室)などを企画する清永真理子さん。お勧めは小鉢や抹茶わんなど深い器に80度ぐらいの湯を張り、薄いガラスのちょこをつける方法。好みの温度になったらすぐ引き上げればよく、湯を足せば長く楽しめる。

もう少し本格的な燗に挑戦したい場合、家庭でできる手軽な方法を、司牡丹酒造(高知県佐川町)の竹村昭彦社長に聞いた。「一気圧のもとでアルコールの沸点は78.3度なので、それ以下の湯につける」と竹村社長。温度を上げすぎると、香りが飛んでしまう。

深めの鍋に水を入れて火をつけ、60度を超えたら火を止め、酒を入れたとっくりを1~2分ほどつける。ちろりは無くてもいい。均一に温められるよう、鍋の水面ととっくりの中の酒の表面は同じ高さにする。

方法の次は、自分の「好みの温度」探しだ。温度帯によって「飛び切り燗」「熱燗」「ぬる燗」など様々な呼び名がある。「5度ずつ温度を上げて試してみると面白い」と清永さん。筆者は酒販店で「燗に合う」という純米酒とデジタル温度計を買い挑戦した。

「花冷え」とも呼ぶ10度。香りは穏やかで、キリっと引き締まった味わい。20度、25度と上げていくと、徐々にバナナやメロンのようなフルーツの香りと甘みが現れる。30度の「日向(ひなた)燗」では、香りに甘さが増して口当たりはまろやかに。35度の「人肌燗」ではさらに甘みやうまみがふくらみ、ヨーグルトのような酸味も出てきた。

40度の「ぬる燗」からは甘みやうまみが広がる一方でアルコールが辛みとして感じられ、魚介類の臭みも消してくれそうだった。50度を超す「熱燗」はアルコール分の揮発が際立つ。鼻を近づけるとツンと来るアルコール香が苦手な人がいるかもしれない。おでんなどと合わせたい感じだ。

竹村社長は「まずは40度程度のぬる燗で試し、好みの味が引き立つ温度に微調整するといい」と話す。

味の「微調整」効果も

お酒を「燗」という方法で温める文化は、日本と中国だけという。とっくりや錫(すず)・銅製のちろりで燗をつけるのは江戸時代から行われていた。『●酒師必携』(柴田書店、●はくちへんに利)によれば、かつては日本中の多くの料理店に「お燗番」という担当者がいて、その酒に一番合う温度にしたり、客の好みに合わせたりして提供していたという。

「燗で日本酒の成分が変化するわけではないが、酒の香りや甘みは温度変化によって微妙に違って感じられる」(竹村さん)。温度を上げることで、甘みはより強く感じられ、酸味はうまみに変化する。苦みはコクとして感じられ、太いボリューム感を得られる。買った日本酒を冷酒で飲んでみて「あまり合わない」と思っても、燗をすることで好みの味わいに「微調整」することが可能だ。

繊細な「吟醸香」を売りにする吟醸酒や、あえて火入れを避けて作られた生酒は、一般的に燗に向いていないとされる。とはいえ、日本酒は嗜好品なので、吟醸酒を燗するなど、少し邪道に思えても、好きな方法で試してもいいだろう。

(ライター 糸田 麻里子)

[日経プラスワン2016年2月13日付]