つら~い慢性副鼻腔炎 タイプ様々、適切な治療を
鼻づまりや鼻水…長引く不快な表情
40代のAさんは風邪の治りかけのころ、決まって鼻づまりがひどくなる。季節は問わない。鼻の奥がつーんと痛み、目もしょぼしょぼする。我慢しきれずに近くの耳鼻咽喉科に駆け込むと、鼻にたまったうみを吸引してくれる。処方された抗菌薬を飲むと、2日ほどですっきりすることが多い。しかし、風邪をひくと再発するのが常だ。
副鼻腔は頬、目と目の間、額にある空洞で、左右に4つずつ、合計8つある。鼻腔を取り囲むように存在しているので副鼻腔と呼ばれる。内壁は鼻腔と同じく粘膜で覆われている。声を共鳴させたり、外部から頭部への衝撃を和らげたりすると考えられているが、その役割はまだよく分かっていない。
その副鼻腔に炎症が起きた副鼻腔炎のうち、症状が1カ月以内の場合は急性副鼻腔炎、症状が3カ月以上続いた場合を慢性副鼻腔炎と呼ぶ。東邦大学医療センター大橋病院の吉川衛教授は「ウイルスや細菌の感染が発症のきっかけになるが、慢性化する要因にはアレルギーやストレスによる免疫の低下などがある」と解説する。
副鼻腔にうみがたまり、いわゆる蓄膿(ちくのう)症と呼ばれる従来の慢性副鼻腔炎が患者の大多数を占める。主な症状は鼻づまりや緑色や黄色のドロドロしたうみのような鼻水だ。それがのどに流れることも多い。頬にある上顎洞で起こりやすい。
治療は抗菌薬やステロイド薬を霧状にして鼻から吸入するネブライザー療法と、マクロライド系と呼ばれる抗菌薬を少量、長期服用する薬物療法の2つが代表的だ。これらを3カ月続けると約7割の患者が快方に向かうが、症状が改善しない場合は手術を考えることになる。
最近増えているのが好酸球性副鼻腔炎だ。好酸球とは白血球の一種。何らかの原因で好酸球が増え始め、働きが過剰になって発症すると考えられている。ぜんそく患者に多いとされる。副鼻腔炎全体の患者数約40万人のうち、約2万人が好酸球性副鼻腔炎という。
症状の特徴は、のりのような粘り気のある鼻水だ。目と目の間にある篩骨(しこつ)洞に炎症が起きやすく、目の奥の痛みや頭痛、嗅覚障害などを引き起こす。鼻の粘膜がきのこ状にふくらむ鼻ポリープができやすく、手術で切除する必要がある。
好酸球性副鼻腔炎は2015年7月に指定難病と認定され、指定医療機関で治療すれば医療費が補助されるようになった。吉川教授は「根治することはないので、手術後に症状がよくなっても、再発予防のために毎日鼻を洗浄してステロイド薬を点鼻する必要がある」と話す。
副鼻腔で真菌(カビ)が増殖する副鼻腔真菌症もある。初期には症状が現れず、カビの塊が4センチほどになって初めて気づくこともあるという。副鼻腔の片側に起きることが多く、悪臭を伴う鼻水が出るのが特徴だ。免疫が低下すると鼻の周りの組織が破壊され、激しい頭痛や視力障害などを生じ、死に至ることもあるので注意が必要だ。
鼻ではなく、歯に原因があるのが歯性上顎洞炎というタイプだ。虫歯や歯周炎などの炎症が歯の根本に伝わり、上顎洞でも炎症を起こす。歯の痛みに続いて、悪臭の強い鼻水や頬の痛みが現れる。慶応義塾大学病院の中川種昭教授は「インプラント(人工歯根)手術の不備に起因するケースが増えている」と説明する。
軽症なら抗菌薬で対処するが、症状が重くなると手術をするしかない。少し前までは抜歯などの歯科治療をしたうえで、上顎洞の粘膜を根こそぎ切除する根本術が普通だったが、生活の質が著しく落ちる問題があった。同病院の莇生田(あそだ)整治講師は「粘膜を温存して処置する術式が広がっている」と話す。
いいづか耳鼻咽喉科(東京・目黒)の飯塚雄志院長によると、通院者に男女差はあまりなく、高齢者より中年層がやや目立つという。「アレルギー鼻炎と思い込み、症状が長引いて慢性化してしまうことがある。自己判断しないで早めに受診してほしい」と呼びかけている。
画像検査が有効 うみの場所、一目で
慢性副鼻腔炎の診断に威力を発揮するのが画像検査だ。CTや磁気共鳴画像装置(MRI)が使われる。うみがたまっている部位が一目で分かる。
患部のCTを見ると、本来は黒い空洞であるはずの部分が灰色になっていることで識別できる。レントゲン写真とCT画像の診断が一致する率は上顎洞や前頭洞では高いが、篩骨洞では低い。蝶形(ちょうけい)骨洞は普通のレントゲンでは映し出せない。
小児期でも慢性副鼻腔炎は起きるが、CT検査は一般に推奨されていない。CTの放射線量は大人なら問題ないが、小児では成長への懸念があるからだ。CT検査は頭部の合併症が疑われるケースに限られるという。
(池辺豊)
[日本経済新聞朝刊2016年2月14日付]
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