「凍った道」ですべらないペンギン歩き、膝曲げて

雪が降った翌朝、凍結した道を歩くのに苦労したことはないだろうか。雪に慣れていない地域の人はとくにそうではないか。記者(54)もその一人だ。では転びにくい歩き方とはどういうものか。また、転んでしまった場合はどう対処すべきか。専門家に教えてもらうことにした。

雪の安全対策ならやはり、雪国か。札幌市には雪道や凍結した道を安全に歩く啓発活動に取り組んでいるウインターライフ推進協議会という組織がある。事務局がある北海道開発技術センター(札幌市)を訪ねた。

雪に慣れているはずの札幌でも、転倒してケガをする人は少なくない。市内では過去10年の冬期(12月~3月)に平均900人弱が雪や凍結が原因で転倒し救急搬送されている。同センターの金田安弘さんは「救急搬送されていない人もいるので転倒者はもっと多いとみられる。骨折など大けがにつながることもあるので転ばない歩き方を身につけてほしい」という。さっそく指導してもらった。

普通に歩いているとき、人はかかとで着地して、つま先で路面を蹴って前に進む。凍った路面に着地したかかとが、体重を支えられず前方へ滑ると、体は後ろ向きに倒れる。逆につま先が後方へ滑ると体は前のめりする。「だから、膝を軽く曲げて、靴裏全体に体重をかけて路面を踏んで歩くこと」

試してみると、頭では理解しているのにかかとで着地してしまう。そんなときは「まず足踏みをして、それから心持ち前傾姿勢で歩き出すといい」とアドバイスをもらった。すると今度は「おお、足裏全体で着地できる」。

なみなみのお酒 持って歩く感じで

歩幅もポイントだ。広いままだと片方の足で体を支える時間が長くてぐらつく。狭めると安定してきた。記者が歩いている姿を写真に撮って見せてもらうと、ペンギン歩きのようで情けない。だが金田さんは「凍った道を歩くのはスケート場の氷の上にいるようなもの。そろそろ歩くペンギン歩きが有効だ」という。

とはいえ膝が硬い記者は、うまく前傾できずお尻が後ろに落ちる。リュックサックを背負うとその重さでバランスを崩しそうになる。

何か手はないか。積雪寒冷地での転倒予防策を研究している北海道医療大学教授の鈴木英樹さんに聞くと、コツを話してくれた。「男性ならコップいっぱいについだお酒をこぼさないように、女性なら両手でおでん鍋を持って歩く。そんなイメージ」。足の親指の付け根を地面につける意識を持つといいそうだ。

凍った道では、歩き方だけでなく、どこが滑りそうな路面か知ることも重要になる。

街中で危険なのは駐車場や駅、店舗などの出入り口付近だという。多くの人や車が行き交うため雪が踏み固められて凍って滑りやすくなっている。バスやタクシーの乗降場も要注意。降車するときは足裏全体で着地し、ゆっくりペンギン歩きをするといい。

横断歩道では、信号待ちをする場所が凍っていることがよくある。青信号になって歩き出すときは足を取られてバランスを崩さないようにする。横断歩道を渡るときは「なるべく白線部分を踏まないこと」と、北海道開発技術センターの永田泰浩さん。水が路面に染み込まないので薄い氷の膜ができやすく、予想以上に滑る場合があるからだ。

滑る場所という印象が薄い水たまりだが、危険が隠れていることがある。水たまりの下に凍った雪が残っていることがあるのだ。大きな水たまりがあると、つま先だけ入れてピョンピョン跳ねて行くことが多い記者も、今回の取材の帰り、札幌駅前の雪の水たまりで滑り、ひやりとした。

転んだら慌てない まず周囲を確認

靴底についた雪や水を、しっかりマットなどで落としてから屋内に入ることも、大切だ。屋内のタイルはぬれると滑りやすくなることがある。

転んでしまった場合はどうしたらいいか。北海道医療大学の鈴木さんは「慌てて立ち上がろうとすると、再び滑って転んでしまうことがある。倒れたままでいいので周囲の状況を把握し、自分がどこを痛めたか確認すること」と説く。頭を打った場合はすぐに動くと重症になることもある。「目まいがしないか、モノが二重に見えないか確かめて、落ち着いて安全な場所に移動するといい」

雪が多い長野県北部の飯綱町立飯綱病院の医師、川口正展さんによると、人は倒れ込むときに防衛本能から路面に手をつくという。だから、凍った道を歩くときはできるだけ両手を空けるようにする。さらに手袋をすれば、手をついたときにも衝撃を吸収するのでケガをしにくくなる。

金田さんや永田さんは、雪の日や凍った道を歩くときはリュックや肩掛けカバンに持ち替えて両手を空けるよう薦める。歩き方も教わったし、手提げカバンでもゆっくり慎重に歩けば大丈夫かもしれない。ただいざというときのことがある。道が凍りそうなときは、やっぱりリュックで出かけることにしよう。

雪道の服装。長靴、手袋、帽子が必須
スポーツシューズは雪で溝が詰まりやすい

記者のつぶやき
■ベタ雪には雨がっぱか
昔、雪の翌日に凍結した歩道橋で滑って落ちそうになったことがある。底のゴムが柔らかく、滑りにくく加工したタイプの靴を履けば転ばないかと思っていたが、転倒する人はいるし、雪のない屋内ではグリップが利きすぎて、逆に捻挫する人もいると聞いて驚いた。滑りにくい靴も便利だが、路面の状態を見極めることとペンギン歩きが大事だと再認識した。
札幌市は粉雪で軽く払えば服から落ちるので傘をささなくても気にならなかった。だが湿気の多いベタ雪だと傘は必須。両手を空けるにはどうしたらいいか。最近、自転車に乗る人の間で多く着用されるようになった雨がっぱが有効かもしれない。
(川鍋直彦)

[日経プラスワン2016年2月6日付]