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釧路のザンギ タレで変身 昆布だし香る白飯の友

2016/2/2付 日本経済新聞 夕刊

北海道で鶏の空揚げと言えばザンギ。そのザンギにタレをかけて食べる「ザンタレ」が北海道東部、釧路のご当地料理として定着しつつある。まちおこしに燃える市民有志も普及に一役買い、B―1グランプリ出展、ハンバーガーチェーン店での販売など全国区へ飛躍しようとしている。

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2度揚げしたザンギに独自のタレをかける

「こんなに広まるとは思わなかった」。釧路市の隣、釧路町遠矢にあるレストラン、南蛮酊(なんばんてい)。平日の午後3時を過ぎても客足が途絶えない店の厨房で、店主の藤野邦雄さん(68)は大量の鶏を揚げながら語る。

藤野さんはザンタレの名付け親として知られるが、それは偶然の積み重ねによるものだ。

36年ほど前、北海道内で洋食の修業をした藤野さんは釧路市の繁華街、末広町に洋風炉端「南蛮酊」を開業した。宴会のコース料理を考えていた藤野さんは「従来のザンギではつまらない。タレをかけたらどうだろうか」と、鶏のもも肉で作るザンギに自ら考案したタレをかけて出した。

中華料理で、鶏の空揚げに甘い酢じょうゆタレをかける油淋鶏(ゆーりんちー)もヒントになった。ただ、コース料理の一品だったため名称は付けなかった。

南蛮酊のザンタレは一皿700グラムとボリュームたっぷりで、1日100キログラム以上の鶏肉が出ることも

ある日のこと、常連客の十条製紙アイスホッケー部(現日本製紙クレインズ)の選手が、別の宴会の客がたまたま残したタレをかけたザンギをつまんだ。「これはおいしい。マスター、何という料理?」と聞かれた藤野さんがとっさに命名したのが「ザンタレ」だった。「単純にザンギにタレをかけたからそう呼んだ」(藤野さん)

それから十条の選手らが来るたびに、メニューにはなかったが「マスター、ザンタレ出して」と頻繁に注文するようになり、やがて一品料理としてメニューに載せるようになった。

タレのレシピは秘密だが「釧路らしく昆布をベースに使い、和洋中ミックス風にアレンジした」(藤野さん)。甘酸っぱい風味で、しつこさはない。

ザンタレは口コミで広まり今では釧路のほかの居酒屋や回転ずし店でも出される。タレのレシピは各店独自のものだ。南蛮酊も18年ほど前、末広店を閉めて、藤野さんの出身地、釧路町遠矢に移ったが、ザンタレ人気は定着、多い時で鶏肉にして1日100キログラム以上出る看板料理になった。

釧路市内で「さかまる」などの飲食店を展開するゼン・スタイル・ダイニングも15年ほど前からザンタレを出す。社長の大野良太さん(38)も若い頃からザンタレに親しんできた。「今は夜のメニューが中心なので、ランチも食べられるような専門店を中心部に出したい」と意欲を示す。

ザンタレがなぜ人気料理になったのか?

「タレをかけた瞬間にザンギはご飯のおかずとしてもより食べやすくなるんですよ」。そう指摘するのは観光バス事業などを展開する釧路衛星(釧路町)社長の斎藤剛史さん(44)。釧路には鉄板の上で温めたスパゲティにカツを載せるスパカツ、緑色のそばなど独特の料理があるが、多くは外食で食べる。一方、ザンギは家庭でも作ることができ、それぞれの味付けで総菜やつまみとして広く食卓で親しまれてきた。斎藤さんは「人の5倍はザンギを愛する」ファン。「タレをかけることで丼物にもできるなど幅が広がった」

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ザンタレの歴史は新しいが、釧路市民の支持を得ていることを示したのが、昨年10月の青森県十和田市でのB―1グランプリへの初出展だ。B―1は料理の販売よりも、食文化を通じてまちおこしをしようという地元の熱意が参加資格として重視される。

モスバーガーで期間限定で全国販売された「釧路ザンタレバーガー 甘酢たれ」

斎藤さんはザンタレの普及をめざした市民応援隊「釧路ザンタレなんまら盛り揚げ隊」の総隊長も務める。盛り揚げ隊はザンタレのB―1出展が正式に承認された後、それまでの「くしろザンギ・ザンタレde盛り揚げ隊」を改称して発足した。B―1では入賞はならなかったが「順番は意識していない。ザンタレという地元グルメで釧路を何とかアピールしたかった。市民の方の協力も得られ充実していた」と振り返る。

これに注目したのがハンバーガーチェーン「モスバーガー」を運営するモスフードサービス。盛り揚げ隊の協力で、昨年、「釧路ザンタレバーガー 甘酢たれ」を期間限定で全国販売した。コンビニ大手のローソンも南蛮酊の監修で、ザンタレ丼を売り出した。

盛り揚げ隊広報局長の菅野貴光さん(43)は「ザンタレは釧路の食文化になりつつあるが全国的には知られていない。観光客がザンタレを食べに釧路に来てくれるような流れを作りたい」という。それにはまちおこしをキーワードに業界、市民が一体となった取り組みが求められる。

<マメ知識>「ザンギ」名付け親も釧路
北海道の居酒屋のメニューで見かけるザンギ。ショウガなどで下味を付けた竜田揚げに似た鶏の空揚げをそう呼ぶが、なぜその名称になったのか。一説では、ザンギは釧路市の繁華街、末広町に今も店を構える「鳥松」で誕生した。昭和35(1960)年、中華料理の鶏の空揚げ「炸鶏」(ザーギーなどと発音)に「運」がつくようにと「ザンギ」と命名、骨付き肉を揚げてソースを添えて出したのがはじまりという。今では地元食材のサケ、鹿、タコ、そば粉などを使った様々なザンギが生まれている。

(釧路支局長 野間清尚)

[日本経済新聞夕刊2016年2月2日付]

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