なぜエルニーニョ現象が起きると暖冬に?

2016/2/2

エルニーニョ現象で暖冬になると聞いたけど…

スーちゃん 今週の初めはすごく寒かったけど、この冬は暖かいよね。校庭にしも柱がめったにできないよ。「エルニーニョ現象」が原因って聞いた。なぜエルニーニョ現象だと暖冬になるのかな。

寒気の南下を左右する風の動きに注目しよう

森羅万象博士より 今回のエルニーニョ現象は規模が大きくて過去3番目だそうだ。「モンスターエルニーニョ」や「ゴジラエルニーニョ」と呼ぶ人もいるよ。

南米ペルーの沿岸から太平洋の中央部にかけて海面近くの水温が高くなり、これが半年から1年半ほど続くのがエルニーニョ現象だ。ふつう、赤道付近の太平洋の海面付近の温度は西の方が高くて東は低くなる。赤道付近では「貿易風(ぼうえきふう)」という東風が吹き、海面近くのあたたかい水を西側に運ぶからだ。

ところが貿易風がなんらかの原因で弱くなることがある。するとあたたかい海水が西へ移動しなくなり、太平洋の東側がいつもの年よりも水温が上がるんだ。海面があたたかいと、深い海からわき上がる冷たい水の流れが弱まって水温が下がりにくい。

日本では、エルニーニョ現象の年は暖冬になりやすいといわれる。関東甲信(こうしん)よりも西は気温が高く、東北から北はいつもの年のように寒いことが多い。昨年12月の平均気温は関東甲信、北陸、東海地方の「東日本」ではいつもの年よりも1.9度高かった。観測を始めた1946年以降で最も高かったそうだ。

なぜ暖冬になりやすいのかな。それは北半球の中緯度の上空をうねるように流れる「偏西風(へんせいふう)」と呼ぶ強い西風の進路が変わるからなんだ。

海水温が高いと、水蒸気の発生が増える。あたたかい空気は軽くて上昇気流が発生しやすく、水蒸気が上昇して積乱雲ができる。ようするに、低気圧が発達しやすい。

エルニーニョ現象のときはあたたかい海水が東にあるため、積乱雲ができる場所がいつもより東へ移る。太平洋の西のはしに位置するフィリピンやインドネシアはふだんの年は雨が多いけど、海水温が低いと上昇気流が起こりにくいから、高気圧におおわれやすくなる。

すると偏西風が中国南部の上空でいったん南に下がり、日本付近では北へずれる。この風に沿って南からあたたかい空気が流れ込みやすくなる。結果として、日本の西の方は気圧が高くて東は低いという「西高東低」の冬型の気圧配置が弱まる。

こうなると、シベリアにある上空の寒気が南下しにくくなって残ってしまう。この影響は北日本には及ばないから、暖冬になるのは関東より西側なんだ。

今週は偏西風の流れが変わって日本の上空で大きく南へずれた。それで、たまりにたまっていた氷点下6度以下の寒気が一気に西日本へ南下したから記録的な寒さになったんだ。でも寒さは長続きせず、しばらくすると暖冬に戻り、春の訪れも早くなる見通しだ。でもときどき寒くなることもあるから、体調管理には気をつけよう。

世界各地でも異常気象が起こりやすい。海面付近の水温が低く高気圧が広がるインドネシアやフィリピンは干ばつにみまわれることがある。オーストラリアの北東部や西部でも雨が少なくなる。エルニーニョ現象は世界の人たちの生活に影響を及ぼすんだ。

■1つじゃ説明しきれない

博士からひとこと 2014~15年の冬はエルニーニョ現象が起きたのに記録的な寒さになった。さらにインド洋の東側で海面付近の水温が高くなった結果、上空を流れる偏西風(へんせいふう)が中国のあたりで北へずれ、日本付近で南下した。このため、日本付近は上空にある冷たい寒気が流れ込みやすくなった。
 赤道付近はエルニーニョ現象の影響を直接受ける。しかし、日本の気候を左右するのは赤道付近の海の状況のほかにも、インド洋の海面近くの水温や北極付近の気圧配置などいろいろある。エルニーニョ現象が起きたからといって冷夏や暖冬になるとはかぎらないんだ。

(取材協力=気象庁気候情報課)

[日経プラスワン2016年1月30日付]