劇団ハイバイ「夫婦」暴君の父、異色の「私演劇」

劇団ハイバイを主宰する岩井秀人の新作(演出も)は「こんにちは、岩井です」のセリフで始まる。私小説ならぬ私演劇。父の死を語りと寸劇で織りあげた異色作である。

酔うと暴力を振るう外科医の父。自由や女権に理解を示す言葉を口にしながら、子供を木刀で血だらけにする。妻と3人の子はおびえて暮らし、末っ子の「岩井」はうまく生きられなくなる。が、この暴君も肺がんになると老女のように縮んでしまうのだ。

箸で大音量のクラシック音楽を指揮する父の異様さ。猪俣俊明の豹変(ひょうへん)ぶりがこわい。おどおどした母を演じるのは男の山内圭哉。演技の奇怪さに暴力のかげが。他の役者も緩急の呼吸がいい。

舞台には乱雑に置かれた椅子とテーブル。あちこちのスポットで家族の過去と現在が演じられ、スクリーンに記憶の断片が映しだされる。同じ人間の別の時間がふいに出合うことも。時と場所を軽々と飛び越え、不思議な空間をつくるのがハイバイ流だ。

余りに私的な、小さな世界ではある。そこで起きる挿話をつづるだけでは容易にドラマにならない。ぎりぎりの綱渡りといえる作劇だが、家族の物語はやがて現代の不条理を探りあてる。医療を信じこむ父は病院のとらわれ人となり、ほかならぬ医療によって命を失う。寝たきりの人形がその仕打ちを刻んで無残。

「父」や「夫」の役をうまく演じられない戦後の男は悲しい怪物だ。和解できない「岩井」だけれど、暴君の皮肉な最期、そのみじめさには痛恨の思いを抱く。ひきこもり体験から演劇を始めた41歳は、こんなレクイエムをしぼりだした。現代演劇の奇才がこの痛覚から「大きな物語」を生みだす日を待とう。

(編集委員 内田洋一)

1月24日所見。2月4日まで、東京芸術劇場。2月13、14日、北九州芸術劇場。

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