ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学 入山章栄著通説の限界と最新の知見紹介

「経営学って本当に役に立つんですか?」。米国のビジネススクールで10年間、経営学の教育と研究に携わってきた著者へ、日本の経営者たちからの痛烈な質問。日本で何となく通説と思われている「経営学」と、著者が肌で知る最先端の経営学の間には大きなギャップがある。経営学は本当に実学たりうるのか。真摯な経営学者によるその答えが本書である。

(日経BP社・1800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

著者は、日本企業を念頭におき、戦略形成、イノベーションなど、広範なテーマについて通説の限界と経営学の最新の知見をセットで論じていく。本書の意図は、これまで一般に還元されることの少なかった最先端の研究成果を現実の経営課題に適用・紹介し、「経営学の知識共有化」を図ることにある。

多くの新鮮な視点の中でも、特に、周知のマイケル・ポーターの「競争戦略」、クレイトン・クリステンセンの「イノベーションのジレンマ」を超えた最新の知見が興味深い。ポーターの競争戦略は万能薬のように見えるが、実は通用する範囲は不確実性の高くない、競争環境が変わらない状況に限定される。日本の多くの業界のように複数の企業が高機能製品の開発にしのぎを削る競争環境にも適さない。競争の「型」が違えば、求められる戦略は異なる。

クリステンセンに続くイノベーション理論も実践的で示唆に富む。イノベーションは、異質な知と異質な知との組み合わせから生まれる。スーパーマーケットの在庫管理方式から学んだトヨタのかんばん方式はその一例。イノベーションには異質な知を探しまわる「知の探索」が欠かせない。しかし、日本の大企業ほど、短期的な収益性を重視し、特定分野に集中する「知の深化」を優先するため、中長期的なイノベーション力を喪失してしまう。

解決の鍵は「知の深化」と「知の探索」をともに重視する「両利きの経営」の実現。その前提が組織の記憶力にあるというのも目からウロコだ。オープンな組織で、互いに誰が何を知っているか、「目は口ほどにものを言う」密なコミュニケーションがイノベーションを生み出す土壌になる。そのためには、今は少なくなった平場オフィスが最適だという。苦闘する多くの伝統企業にとって、復活のヒントになるかもしれない。リーダーシップ、起業家のあり方など、現代企業において考慮すべき知見や理論で裏付けされたフレームワークも多数紹介されている。本書の続編、より詳細なテキストを期待したい。

(専修大学教授 徳田 賢二)

[日本経済新聞朝刊2016年1月24日付]

ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学

著者 : 入山 章栄
出版 : 日経BP社
価格 : 1,944円 (税込み)