節分はデコ巻きずし 赤鬼食べて厄払い
目や鼻 具材で組み立て
「顔ができてる、かわいい!」。1月上旬に都内の料理教室「Happy Cooking」で開かれた、節分の「赤鬼」の巻きずし講座に参加した女性たちが歓声をあげた。講師の下野ひとみさんは、日本デコずし協会認定のデコ(デコレーション)巻きずしマイスターの一人。季節や行事などの絵柄の巻きずしの作り方を指導している。
金太郎あめのようにどこを切っても同じ絵柄が出る巻きずしは、江戸前ずしの細工巻きや千葉県の郷土料理「房総の太巻き」などとして、親しまれてきた。これをアレンジし「飾り巻きずし」として広めたのが、「日本すし学院」(東京・中央)で主席インストラクターを務める川澄健さん。飾り巻きずしをより親しみやすくしたのがデコ巻きずしとの呼び方だ。
恵方巻や一般的な太巻きずしでは縦21センチ横19センチの全型ノリを使うが、赤鬼の巻きずしではこの半分サイズの半切ノリを使う。自宅に全型ノリがあれば、縦半分に切って使ってもいい。光沢のある方が表。酢飯や具など食材は裏側に置く。
目や鼻などの各パーツにはノリを巻いて「輪郭をはっきりさせる」(下野さん)。ノリの端は分量外の酢飯の粒で接着するとしっかり巻ける。
顔部分の酢飯をピンク色にする「おぼろ」は、白身魚などのすり身をいったもの。「砂糖で煮詰めるでんぶでもいいが、べとつきやすい。使う場合はおぼろの半量程度にし、酢飯を増やす」(下野さん)。髪の毛の色にする黒すりごまの代わりに青ノリでもいい。
新宿区在住の主婦、小田千絵さんは「子どもが喜びそうなかわいらしい飾り巻きずしを作ってみたかった」と参加。証券会社に勤める永井乙江さんは「料理が得意でなくても楽しく作れた。パーティーで出せば盛り上がりそう」と話す。
「手に飯粒がつかないようにするには、凹凸加工された薄手のエンボス手袋を使うといい」と川澄さんは助言する。素手なら水に1割ほど酢を混ぜた「手酢」を使う。つけ過ぎると水っぽくなる。
きれいに切るには、ぬれぶきんで包丁を拭いた後に刃先に手酢をつけ、刃先を上に向けて全体に水を伝わらせる。「包丁がうまく引けない時は一旦抜く。何度か繰り返すと断面が崩れない」(下野さん)
赤鬼の表情は作り手によって微妙に違う。下野さんは「パーツの位置で印象が変わる。自分なりに工夫して楽しんでほしい」と話す。
心の鬼は食べて払おう
節分とは、本来は春に限らず四季それぞれの変わり目の前日をさす。江戸川大学社会学部の斗鬼正一教授は「旧暦では春の節分の頃が新年となる。大みそかの追儺(鬼やらい)という厄払いの行事が、室町時代以後に春を迎える前に邪鬼を払う節分行事となった」と説明する。豆まきも大みそかの年越しの行事だった。
恵方巻の起源は一説に幕末の大阪とされる。1932年に大阪鮓(すし)商組合が「その年の恵方に向いて無言で壱本の巻寿司を丸かぶりすれば其の年は幸運に恵まれると云う」とのチラシを配った記録がある。
丸かぶりするのは「包丁を入れると縁が切れるという縁起担ぎ」の説も。コンビニエンスストアが恵方巻きとして商品化、全国に広がっていった。日本すし学院を運営する「ちよだ鮨」では全国約200店舗で約20万本を販売するという。
斗鬼さんは「春の節分は1年の区切りとなる大切な年中行事。科学的に鬼はいないが、鬼とは人の心の中に生まれるもの」と話す。今年の恵方は南南東。恵方巻や赤鬼の巻きずしをパクリと食べて、心の鬼を追い払おう。
(ライター 田村 知子)
[日経プラスワン2016年1月23日付]
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