文字を美しく書くコツ 隙間のバランス整えて

美しく整った字が書けない。お礼状を書けば字のクセやバランスの悪さが気になる。ノートやメモを後から読み返して、乱雑なあまり「何を書いたんだっけ」と思うこともしばしばだ。今から習字を習う余裕も根気もないが、少しでもきれいな字を書けるようになりたい。コツを探った。

訪ねたのは、横浜国立大学教授で「クセ字が直る美文字レッスン帳」(NHK出版)などの著書がある青山浩之さんだ。そもそもクセ字になるのはなぜか。「小学校の時はお手本をもとに書き、脳内にもその字が定着する。高学年から中学生で学習量が増えると、丁寧に書くことより速さを優先させるようになる」。すると脳内の「お手本」が崩れて自己流で書くようになり、クセがつくというわけだ。

自分用のメモや手帳は達筆でなくてもいいが、普段から雑に書いているとその習慣が定着する。その結果「視覚を通して脳内文字を上書きしてしまう」。丁寧にゆっくり書いても、脳内文字が崩れていれば美文字には遠くなる。記者は10年以上、速度を優先して取材のメモを取り続けてきた。以前より字が下手になったのも納得だ。

脳内文字を整えるには練習帳を買ってコツコツ書く方法がある。ただし「時間がかかるし、忙しい人は挫折しやすい」。練習帳に取り組みたい人は「ただ手本をなぞるのではなく、自分の字のどこが違うかを考えながら学ぶ」と、より上達する。

練習帳よりも時間をかけずにクセ字を改善する方法も教わった。「隙間均等法」だ。「人は文字の線を見ていると思いがちだが、実は線と線の間も見ている。隣り合う隙間が均等だとバランスよく見える」。例えば「田」。漢字の中の四つのスペースが同じ大きさだと整って見える。

記者が書いたはがきを青山さんに見てもらうと――。

冒頭の「田中様」の隙間は、「田」はまあまあそろっているが「中」は左右が不均等。「様」もつくりの上と右、右下の隙間が大きい。最終行の「願」もつくりの隙間が小さすぎる。それでも一応「ある程度読みやすい落ち着いた字」との評をもらった。

■大人っぽい平仮名 結びの形は三角形

次は平仮名。実は漢字より平仮名の方が苦手だ。画数が少なく、ごまかしがきかない。「女性に多いのは平仮名がかわいらしくなるタイプ」と青山さん。少女時代にはやりの丸文字などで書くと、クセがどこかに残ってしまう。このはがきでは「よ」「ま」の結びが丸いと指摘された。横長に結ぶと大人らしい文字になる。「す」も結びの部分が丸いが、理想は三角形だ。

平仮名も隙間に気をつける必要がある。「平仮名は画数が少ないため、漢字より隙間が大きくなる。漢字と平仮名を同じ大きさに書くと間延びして見える」。漢字と平仮名をまぜて書くときは、平仮名は漢字よりやや小さめにする。

筆記具の持ち方、使い方も教わった。親指と人さし指で持ち、中指を添える。正面から見て三つの指が三角形を作ればOK。多いのが親指が突き出ている人だという。手首を机に固定し安定させることも書く際のポイントになる。

ちょうど年末で、年賀状を出す時期だったので、字の隙間と、平仮名のサイズを意識して書き続けた。平仮名は脳内の崩れた文字を改善すべく、青山さんが監修した「好感度が上がるやさしい美文字練習帳」(日経BP社)で実際に手を動かして練習した。

改めて同じ文面を書いてみた。青山さんに見てもらうと「とても改善されました」とのこと。「漢字の隙間均等が意識され、平仮名も形が安定し、全体に読みやすい文字になった」。ただし最後2行は「少し慌て気味で、隙間の配慮が薄くなった」とも。

例えば「願」「頼」は隙間が均等ではない。「申し上げます」の中心線もずれた。「あと少し」と思って気が緩んだかもしれない。最後まで気を抜かないことが大事だ。

■万年筆で書くと 表現力がアップ

美文字のための筆記具はあるのだろうか。パイロットコーポレーション営業企画グループの田中万理さんは「万年筆で丁寧に書いた場合、トメ、ハネ、ハライがきれいに出て、表現力が増す」と話す。ボールペンやサインペンと違い、ペン先に弾力があるためだ。「インクは黒を使う人が多いが、青も濃淡が出て味や個性になる」という。

ということは、万年筆なら少々の失敗もカバーしてくれそうだ。きれいなインクだと文字コンプレックスも薄らぐ気がする。習字のお手本のように書けないのがずっと悩みだったが「文字にはその人らしさが出るもの。個性を残しながら相手に読みやすい文字がその人の美文字」という青山さんの言葉も心を軽くしてくれた。以前より整った字が書けると、うれしくなる。手帳の字も前より丁寧に書いている。

中学生時代の字。「訂正」は隙間が均等でとてもいいと青山さんに褒めてもらった
現在の字。走り書きで読みづらい

記者のつぶやき
■丁寧に書く習慣つける
20年前の中学時代の手帳を引っ張り出してみたら、今より明らかに字が上手だった。青山さんにも「『訂正』は隙間が均等でとてもいい」と褒めてもらった。思えばあの頃はパソコンも持っておらず、手書きの機会が多かった。友達とはルーズリーフに書いた手紙をやりとりしたっけ。
文化庁による「国語に関する世論調査」(2014年度)では文字の手書きの習慣について「これからの時代も大切にすべきと思うか」との問いに9割以上の人が「思う」と答えた。読みやすい字を書くことは相手への思いやりでもある。脳内文字が崩れないよう、美文字のための努力をこれからも心がけるつもりだ。
(関優子)

[日経プラスワン2016年1月23日付]