高齢者とのコミュ力アップの秘訣は 専門家に聞く認めて褒める/行動せかさない

2016/1/21付
老親や近所の高齢者と、円滑なコミュニケーションが取れずに悩む人は少なくない。世代による考え方の違い以上に、動作や思考が遅くなるなど心身の状態の変化が隔たりの主な原因になる。高齢者と日々関わる専門家たちに、互いのストレスを減らせるちょっとした言葉遣いや動作の秘訣、心の持ち方を聞いた。
化粧セミナーで高齢者に語りかける資生堂の中里さん(右)(横浜市)

「ブラシに頬紅をつけたら、にこっと笑って頬の上でくるくる回しますよ」。昨年末、介護老人保健施設「ナーシングプラザ港北」(横浜市)で化粧のプロによる「いきいき美容教室」が開かれた。70歳代後半から93歳までの女性13人が参加。指導役の資生堂のスタッフの説明に、熱心に耳を傾け鏡を見つめた。

スタッフの中里陽佐子さんは「高齢者自身にやってもらうための働きかけが大切」と話す。説明を聞き取れない人には、近寄り鏡の前で声を掛けながら実演する。手助けするときは本人の視界に入り、目を合わせて「ちょっとお顔に触れさせていただきます」と断りを入れる。

言葉はハッキリゆっくり簡潔に。チークは「頬紅」と呼ぶなど、横文字は避ける。自分で口紅を塗って多少派手になっても「すてきですね」と褒める。「したことを褒められると達成感で脳が活性化するから」(中里さん)だ。

■認知症が身近に

日本の高齢者割合は26%(2014年)と過去最高。認知症も身近になり、内閣府が15年に約3千人に尋ねたところ、回答者の約56%が家族や親戚など「認知症の人と接したことがある」と答えた。

やりとりで重要なのは「相手のリズムを感じること」と話すのは、川崎市で介護施設を運営するNPO法人「楽」の柴田範子理事長。70歳を過ぎると、考えを言葉にするのに時間がかかるようになる。若い世代が一呼吸待てば「イライラや争いごとが避けられる」と助言する。

スタッフは利用者と接する時、決して急がないという。認知症の利用者Aさん(70歳代前半)はトランプを配る順番が分からなくなる。スタッフは「Aさんが1番、Bさんが2番、Cさんが3番」と配り終えるまで声を掛け続ける。柴田さんは「通常10秒で終えるやりとりに15秒かけるだけで随分変わる」と話す。

■本人の気持ちくむ

ベネッセスタイルケア(東京・新宿)で介護人材の教育を担当する横井祐子さんは、「高齢者が、介護するスタッフや子どもに遠慮して我慢する場合も多い」と指摘。「何でもやってあげるというのではなく、手助けが必要か、自力でできるのか、本人の気持ちをくむのが先決」と話す。

介護現場では「バリデーション」と呼ぶ米国発の新しいコミュニケーション方法も広がりつつある。英語で「確認する」の意。感情に寄り添おうとするのが特徴だ。

認知症の周辺症状も重要なメッセージだと考える。例えば「財布を取られた」と訴える人に、「財布を取られたのですね」と同じ調子で反復。「泥棒はいません」と切り返したり、「散歩の後で探しましょう」と話をすり替えたりしない。本人は「ごまかされた」「きちんと扱われなかった」と感じ、症状が悪化するからだ。

関西福祉科学大学の都村尚子教授は「認知症の人はコミュニケーションが苦手になるが、感情は消えてはいない」と指摘。「うまく伝わらない苦しみや悲しみから喪失感を訴えることが多い。逆に『自分の思いを分かってくれる』と感じられることで気持ちも穏やかになる」と話す。

介護される側、する側という役割ではなく、個人として向き合うところから始めよう。

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イライラにうまく対処

高齢の親との会話がかみ合わず、イライラしたり、ついカッときてつらく当たったり。そして後悔する。こんな思いは家族を介護する人なら誰でも経験しているだろう。そんなとき役立つのが「アンガーマネジメント」と呼ぶ、怒りの感情との上手なつきあい方だ。

横浜市立大医学部看護学科講師の田辺有理子さんは「まず自分がイライラするポイントや癖を知ることだ」と話す。イラッとした具体的な状況を簡単にメモに残し、怒りの度合いを10点満点で自己採点する。

すると「反射的に怒るのではなく、状況を客観視するようになってくる」という。何度かに1回うまくいけばいい、くらいの気持ちで十分だ。

家族間介護では「衰えを本人も子どもも受け入れられず、お互いにいら立つことが多い」と専門家は口をそろえる。田辺さんは看護師経験から、医療関係者ですら患者とのやりとりで怒りを抱くことは少なくないと明かす。同居家族の介護ならなおさら、怒りを制御するのは難しい。「相手に怒りをぶつけられたり、自分が苦しくなったりした時は、その場を離れるのも手だ」と助言する。

(南優子)

[日本経済新聞夕刊2016年1月21日付]