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植物は〈知性〉をもっている S・マンクーゾ、A・ヴィオラ著 分散型知能や視覚の存在紹介

2016/1/10付 日本経済新聞 朝刊

犬や猫を飼っている人は、ペットを家族の一員として扱う。園芸愛好家などはともかく、私たちは動物と植物の間に明確に境界線を引いているのではないか。しかし、未来の食材として注目を集めるミドリムシは、べん毛で移動する。迷路を解きながらゴールに達する粘菌はどうか。本書は、これらの種を特別なものせず、植物全体が〈知性〉を持っていることを示す大胆な一冊である。

(久保耕司訳、NHK出版・1800円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

そもそも知性とは何か。学者の数だけその定義があるだろうが、著者らは、生きているあいだに生じる様々な問題を解決する能力と定義する。生物でさえないと考えられた植物は、ルネサンス期には生物と認められるようになったが、それでも生物ピラミッドの下位に置かれた。しかし、進化論の提唱者のチャールズ・ダーウィンの晩年の著書『植物の運動力』を受け、息子フランシスが植物研究を引き継いだ。植物は知的な存在であるとのフランシスの発表は、世界中で論争を巻き起こした。

ダーウィンの時代では植物の知性に関する証拠が足りなかったが、今ではその研究も遅まきながら進んできた。動物は、脳・心臓など、生きていくために必要な様々な器官を持つ。一方、動くことのできない植物は、動物とは異なる生存戦略を選択した。植物は、多くの構成要素が機能的に集合した構造を作り、各部分が交換可能な「モジュール構造」で成立している。一部が損なわれても、交換可能なモジュール構造であるため、生き延びることができる。

本書は、植物の様々な感覚が紹介される。例えば、植物は光合成のために光に向かって成長しつつ、根は光を避けて伸びていく。これも一種の視覚で、目が分散されている例といえる。

そして植物は昆虫や動物とコミュニケーションをする。蜜を出して花粉を昆虫に運んでもらうが、蜜や果実は昆虫や動物に向けた情報かつ報酬だ。中にはずる賢い植物もいる。例えば、ランの一種は、いくつかのハチの姿形をにおい等も含め、完全に模倣できる。雄バチは、この花に引き寄せられ、「交尾」をする。このとき、擬態した花は雄バチに花粉をかぶせる。蜜という褒美も与えずに、雄バチに花粉を別の花に運ばせるのだ。

現在、人工知能などの研究者たちは動物の様子を模倣することも含め、新しい知能や情報システムを作り出している。植物の知性に目を向ければ、分散型の知能……一部が壊れても機能するモジュール型の知能は、別分野の研究にも大きな貢献を果たすだろう。

(サイエンスライター 内田 麻理香)

[日本経済新聞朝刊2016年1月10日付]

植物は<知性>をもっている―20の感覚で思考する生命システム

著者 : ステファノ・マンクーゾ, アレッサンドラ・ヴィオラ
出版 : NHK出版
価格 : 1,944円 (税込み)

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