思い出の器、現代版「金継ぎ」でもう一度輝きを
「新うるし」て楽々修復、わずか数時間で完成
金継ぎが生まれたのは、茶の湯が盛んになった室町時代、茶道の世界とされる。割れて修復した部分を「景色」と呼び、修復前とは異なる景色を、美的価値が高まったとしてめでた。物を大切にして再生させる日本独特の技だ。
この金継ぎが改めて注目を集めている。本来は本漆を使い、丁寧に時間をかけて乾かすが、わずか数時間で完成する、塗料の一種の「新うるし」が登場。簡易的な手法としてワークショップなどが開かれている。
11月半ばに会を開いた「Kamakura24sekki」(神奈川県鎌倉市)の店主、滝沢智美さんは「半年前から始めたが、キャンセル待ちが出た」と話す。2回目のこの日も、30~40歳代の女性を中心にすぐに定員に達した。「一人で参加する男性もいる」と講師の金継ぎ作家、藤田美穂さん。プラモデル感覚で夢中になるようだ。
現代の金継ぎとはどういったものか。
使う「新うるし」は釣りざおの修理や塗装に使う塗料。漆の木の樹液で作る本漆とは異なる。漆は急に乾かすとひびやムラになるため、職人は室(むろ)と呼ぶ場所で湿度を十分に保ちながら何日もかけて乾かす。新うるしなら数時間で完成、初心者向きだ。
かけらを陶器用の接着剤で貼り合わせ、なくした部分にパテを埋める。コツは「完全にパテを乾かし、触って滑らかに感じるまでヤスリをかけること」(藤田さん)。段差があると、上から新うるしと金粉などを混ぜた物を塗りにくい。
割れた部分をなぞるだけでなく、木の枝状にしたり、ドットをくわえたりと装飾すれば、元の器以上に美しいオリジナル作品になる。藤田さんは「基礎を覚えれば簡単。家庭で気軽にできるので大切な器を育ててほしい」と話す。
参加した桑畑亜紀さんは「旅先で買った愛着ある器は割れても保存している。直して使いたい」と話す。山岸由美さんも「今まで割れたら捨てていたが、これならできる」と満足げだ。
ただ、新うるしを使う場合は注意する点も。「フルーツ皿など食品を盛るには問題ないが、子どもが毎日直接口をつけて使う器や急須の口は避けてほしい」(藤田さん)。これは、元来釣り具用塗料で食品衛生法上のテストをしていないため。発売元の桜井釣漁具(東京・千代田)も、「毒性の強い物質ではないが、念のため口に含む物には塗らないよう」などと注意書きをしている。
一手間かけるなら本漆
ホームセンターなどには本漆を使う伝統的な「金継ぎキット」もある。「月に30~50個は売れる」(東急ハンズ渋谷店のクラフト担当の中川博さん)人気。購入者は20~40歳代と幅広く「和の雰囲気を楽しんでいるようだ」(中川さん)。
製造元の藤井漆工芸(東京・足立)でもこの1、2年は月に100個は売れる。同社の内田明夫さんは「震災で壊れてしまった思い入れある器を修復したいという人も目立つ」と話す。
漆といえば、かぶれが心配になる。直接肌に触れるとかぶれることがあるので手袋をしよう。本漆は乾かすのに少し時間がかかる。「箱で囲うなどして簡易的な室を作り、湿度70%、温度20度ぐらいで2日おくとよい。完成までには1週間ほど」(内田さん)という。
本漆は直接口をつける器でも使われている。まずは簡単な手法、本格派を目指すなら伝統的な手法に挑戦してみよう。慣れると金粉を使った蒔絵(まきえ)に挑戦する人も多いという。
新しい年の始まり。壊れた物も元に戻せる金継ぎは縁起が良いともいう。美しい日本文化に触れてみてはどうだろう。
(ライター 巴 康子)
[日経プラスワン2016年1月9日付]
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