駐停車失敗・道順忘れ… 高齢者の運転ミス、認知症か家族がサポート、納得いく「卒業」を

駐停車の失敗や急ブレーキ、ウインカーの出し忘れ――。高齢ドライバーが運転する車に乗っていて、ヒヤッとした経験がある人は少なくないはず。個人差はあるが認知症のサインかもしれず、家族が早めに変化に気付くことが事故防止のカギだ。身体機能が明らかに衰えたり、認知症と診断されたりした時には納得して運転を“卒業”してもらいたい。そのためには周囲が代わりの移動手段などを一緒に考える必要がある。
高齢者安全運転支援研究会は軽度認知障害の男性の運転状況を調べた(神奈川県座間市)

12月下旬、NPO法人「高齢者安全運転支援研究会」(東京)は60~80代の男性5人に都南自動車教習所(神奈川県座間市)で運転してもらい、どんなミスを起こしやすいかを調べた。5人は認知症の前段階「軽度認知障害(MCI)」と診断されている。指導員が同乗して確認したところ、一時停止の標識を見逃したり、駐車時に縁石に乗り上げたりする人がいた。

参加した東京都港区の弁理士(84)は「若い頃に比べて反応が鈍くなった」と話す。家族の心配を受け入れ、2年前には通勤を車から電車に替えた。

愛車のハンドルを握るのは妻とスポーツジムに通う週3回ほど。ゆっくり運転を心がけ、危険を感じたことはないという。それでも「いつかやめなきゃいけないね」と名残惜しそうだ。

年齢を重ねれば運転に必要な動体視力や反射神経は誰でも衰えるもの。ミスが増えた場合はMCIや認知症の疑いもある。

同研究会によると、高齢になると車庫入れに失敗して車を傷付けたり、通い慣れた場所への道順を忘れたりすることが増える。「疲れているだけ」などと片付けがちだが、同乗する家族が本人に指摘し、自覚してもらうことで専門医の受診や安全運転につながる。

ミスが増えたらすぐに運転中止を求めた方がいいのだろうか。同研究会の中村拓司事務局次長によると、運転は視力や判断力などが同時に問われ、認知能力を鍛える効果もある。運転できる家族が同乗するなど、医師とも相談しながら続けられるか考えることが大事という。「認知症の前段階で早く気付いて受診すれば、運転を続けながら症状が進むのを遅らせることもできる」(中村事務局次長)

ただ認知症と診断されたら、運転はやめなければならない。その時、周囲はどうすべきか。厚生労働省研究班が2010年にまとめた「認知症高齢者の自動車運転を考える家族介護者のための支援マニュアル」は病気が及ぼす影響などについて本人と何度か話し合い、納得して運転をやめてもらうことを勧める。

監修した国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)の荒井由美子・長寿政策科学研究部長は「頭ごなしに『やめて』と言うのではなく、その人が運転する目的や意味を理解し、やめた後の生活をどうしていくかを一緒に考えてほしい」と呼びかける。

移動に車が必要な場合は、家族や知人で代わりに運転してくれる人を探すほか、代替交通機関がないかを調べる。買い物代わりには食材・生活用品の宅配サービスも役立つ。ドライブが趣味であれば、家族の運転で連れて行く、文化講座や運動サークルなど別の生きがいとなりうる活動を紹介するというのも一案だ。認知症でなくとも、運転ミスが多発する場合は同様に、納得した上での卒業を勧めたい。

25年には団塊の世代が75歳以上になる。高齢者安全運転支援研究会の中村事務局次長は「男女ともに免許保有率が高い団塊世代は運転に自信がある人も多く、それだけ注意が必要になる。人生と切り離せない存在の車を長く安全に運転し続けるには、家族や地域のサポートが欠かせない」と話す。

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認知症疑い、受診義務 3年ごとの更新時

道路を誤って逆走するなど、認知機能の低下が原因とみられる事故は相次いでいる。国土交通省などによると、2011年~15年9月までに全国の高速道路で確認された逆走事故は190件で、25件で死者が出た。逆走事故全体の運転者のうち、55%を65歳以上が占めており、家族からの聞き取りなどによると12%に認知症の疑いがあった。

これらを背景に、15年には改正道路交通法が成立。75歳以上のドライバーが免許更新時に受ける認知機能検査で「認知症の恐れ」と判定された場合、全員に医療機関の受診を義務付けた。認知症と診断されれば免許取り消しか停止となる。ただ免許更新は3年ごとのため、その間は申告なしではチェックできないのが現状だ。

免許を自主返納すると身分証代わりになる「運転経歴証明書」の交付を受けられる。提示した高齢者に交通機関やタクシーの運賃、美術館や飲食代を割り引くなど自治体や企業のサービスも広がっている。

(小川知世)

[日本経済新聞夕刊2016年1月7日付]

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