頑張り過ぎない仕事術(上) 上手な手抜きで自衛習熟した作業で実践 自分が主役なら全力

仕事は一生懸命やるべきもの。しかし、体力や気力には限界がある。常に全力で頑張ると、心身の健康を損ねるなど、どこかで破綻する可能性がある。頑張り過ぎずに良い仕事をするには、どうしたらいいか。まずは、メリハリを付けるポイントから。

自動車メーカーに勤務する吉村裕也さん(29)は現在、自宅療養中。課された仕事をこなすため残業や休日出社を続けた結果、体調を崩し、長期休暇を取らざるを得なくなった。「頑張り過ぎは結局、仕事にマイナスになる」と、仕事のやり方を改める必要性を痛感している。

■抱え込む若者

「最近の若い世代は一人で抱え込んでしまう傾向がある」と、行政や企業でメンタルヘルスのコンサルティングを手がけるハートセラピーの代表取締役社長、柳原里枝子さんは指摘する。「やってみて自分には無理だと思っても、引き受けた以上、一人でやらなければと思い込んでしまう」(柳原さん)。結果、ある日突然会社に来なくなるケースは多いという。

「ビジネスは長期戦。完璧主義の人は今後何年働きたいかを自分に問いかけ、力を入れるところと抜くところを調節することが大切」。そう話すのは、ハイズの代表取締役社長、裴英洙さん。医師と経営コンサルタントという両方の立場から、「手抜き」の重要性を訴える。

「手抜きと言うと何も仕事をしないのかと誤解されがちだが、そうではない。長く働くために、またいざという時に最大のパフォーマンスを発揮するために、努力の配分を調節するということ」(裴さん)。例えば自分の力が10あるとしたら、仕事に応じて7にしたり3にしたりする、という具合だ。

では、どこで力を入れ、どこで抜けばいいのか。裴さんは的確に力を配分するための「手抜き三原則」を提唱する。

まず、「自分が主人公の仕事では手を抜かない」。医者なら患者を診察している時、会社員なら商談やプレゼンテーションをする時などだ。会議に参加するが発表や進行は他の人がする場合など、全力を出さなくていいケースもある。

次に「ルーチンワークでは極力手を抜く」。ルーチンワークは、通勤、入力作業、メールチェック、コピーなど慣れた作業や行動。その結果ミスをした場合は、ルーチンワークにするには早すぎたと捉え、習熟にいそしむ。

ルーチンとは違うが、メモを取るときも完璧にする必要はないという。裴さんは「名詞を羅列するメモ術」を実践している。「時間を節約できるし、文章で固めない方がメモを見返したとき新たな発想が生まれやすい」(裴さん)

名詞を羅列することで効率的にメモをとる

最後が「食事と布団の中は完全に手を抜く」。風呂は血圧変動が大きく、体力を使うので手を抜く時間には含まれない。食事と睡眠は栄養補給と疲労回復の時間なので、仕事のことは考えないことが大切だ。「◯時間寝なきゃ」などの強迫観念も睡眠の質を落としかねないので、持たない方がいいという。

「統計が自分にも当てはまるとは限らない。目覚めがスッキリしているなら睡眠は何時間でもいい」(裴さん)。また、頭がさえて眠れなくても、体を横にすれば、血流が増えて疲労回復につながる。

ただ、これまでと睡眠の質が変わってきた場合、注意は必要だ。「体は疲れているのに眠れないなどの睡眠障害が続くようなら、病気の予兆と考えた方がいい」と柳原さん。この段階で心療内科や内科にかかることは、過労によるうつ病防止にもなるという。

■頼むことも重要

頑張りすぎて息切れしてしまう人には、仕事を任せるのが苦手な人も多い。克服するにはどうすればいいか。

「仕事を人に頼めない人は、頼んだ仕事には口を出してはいけないと思っている」と、業務効率化の研修などを手がけるヴィタミンMの代表取締役、鈴木真理子さんは指摘する。頼んだ仕事でも納得がいかない部分があれば修正していい。そこに気づけば頼むことへの抵抗も減るだろう。

また、「自分でやる方が早いし良いものになると思うかもしれないが、他の人の視点も加わった方が、より良いものになる」(鈴木さん)。自分がお願いすれば、相手もお願いしやすくなり、お互いの仕事の質が上がるという相乗効果にもつながる。

裴さんは「仕事を頼めないのは自分の仕事の棚卸しができていないから」と指摘する。一部分を任せたら他の部分が崩れてしまうかもという恐怖心があるから任せられないのだという。「まずは失敗してもいい仕事から任せてみては」(裴さん)と勧める。

次回は、時短メールの書き方や残業との向き合い方などを紹介する。

(ライター ヨダ エリ)

[日本経済新聞夕刊2015年12月21日付]

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