日本のイノベーションのジレンマ 玉田俊平太著実例もとに実践的アドバイス

新技術の開発に熱心で、顧客の声に耳を傾ける模範的企業。投資家や顧客を喜ばせるような製品開発に投資し、収益化を目指す「合理的な意思決定」をする企業……。こうした企業は、ある種のイノベーションによって滅亡に導かれる運命にある。

(翔泳社・2000円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

このことを米ハーバード大学のクレイトン・クリステンセン教授は「イノベーションのジレンマ」「破壊的イノベーション」という概念で表現した。これらをどう実務に応用すべきなのかは、よく理解されていない。本書は破壊的イノベーションのありようについて魅力的な実例を子細に挙げ、日本企業にとっての処方箋を示している。

本書のキーワードである「破壊的イノベーション」とは、新しい顧客にアピールするシンプルでコストが安い製品を生み出すこと。既存顧客が満足する、漸進的改良に基づく「持続的イノベーション」とは異なる。

ポイントは、破壊的イノベーションは既存顧客には当初受け入れられないことだ。既存の大企業は、破壊的イノベーションは取るに足りないと判断してしまう。1970年代にマイクロプロセッサーによるパソコンが出現したものの、既存顧客である企業ユーザーではなく、コンピューター・オタク的なマニアにのみ当初受け入れられた事例がこれに当たる。

破壊的イノベーションに対して既存の大企業は「合理的な」「正しい」意思決定をする。リスクを取ろうとはせず、破壊的イノベーションを無視する。典型的な失敗例は1870年代に電信会社であるウェスタン・ユニオンがグラハム・ベルからの電話の特許売却の申し出を断った事例。当時、電話は、電報に対する破壊的イノベーションであった。なぜ信頼性の高い電報に代わって欠点だらけの電話を採用しなければならないのか。同社はこう考えたのだ。

では、日本企業はどうすべきか。著者は、日本企業は破壊的イノベーションをいくつも起こしてきたと述べる。ソニーのトランジスタテレビ、キヤノン・富士フイルム・カシオ計算機によるデジタルカメラなどだ。

著者はこうしたイノベーションの構造をつぶさに解説した後、実務家に何をすべきかを説く。既存企業が破壊的イノベーションに直面したとき、どう対応すべきか。破壊的イノベーションのターゲットである「無消費者」(何も持たない状態の消費者)のニーズをどう発見すべきか。アドバイスは極めて実践的であり、日本企業の経営者にとって頂門の一針となっている。

(中央大学教授 田中 洋)

[日本経済新聞朝刊2015年12月20日付]

日本のイノベーションのジレンマ

著者 : 玉田 俊平太
出版 : 翔泳社
価格 : 2,160円 (税込み)

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