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餅を安全に食べるには 大根おろしと一緒に

2015/12/24 日本経済新聞 プラスワン

 久しぶりに家族が顔をそろえ、おせちを楽しむお正月。欠かせないのは餅だ。一方で毎年この時期は、餅を喉に詰まらせ窒息し、救急搬送される人が急増する。最悪の場合には心肺停止にも陥る「餅の喉詰まり」を防ぐにはどうしたらいいのか。詰まらせた場合の対応策とともに専門家に聞いた。

 「70歳の男性が餅を喉に詰まらせ、元旦に心肺停止状態で担ぎ込まれてきた。正月はほぼ毎年こうしたケースを診察している」と日本救急医学会・救急科専門医で江東病院(東京・江東)の三浦邦久副院長は話す。

 東京消防庁によると、2010年から14年の5年間に、管轄内で餅や団子を喉に詰まらせて医療機関に救急搬送されたのは571人。そのうち、約4割の221人は1月に運ばれている。

 たかが餅を喉に詰まらせただけと侮ってはいけない。救急搬送された中で、命に関わる重篤なケースが約36%と、入院などが必要ない軽症の人の約30%を上回っている。死亡例も約7%いた。

 どんな人が餅をのどに詰まらせやすいのか。圧倒的に多いのが高齢者だ。東京消防庁の先のデータでは、93%にあたる533人が60歳以上。高齢者はかむ力も飲み込む力も落ちている人が多いのが原因の一つだ。

■ニンジンと同じ

 そしゃくと食べ物の関係に詳しい和洋女子大学の柳沢幸江教授は、「餅は柔らかい食べ物だと思われがちだが、しっかりかみ切るにはかなりの力がいる。生のニンジンをかみ切る時と同様の力が必要だ」と指摘する。日ごろ柔らかいものばかりを食べがちな高齢者は、かむ力が低下する。

 一方、三浦氏は「歯周病の人も要注意」という。「十分にかめないうえに、だ液の分泌量が少ない。口の中がだ液で潤わないと、餅が口や喉にくっつきやすくなるからだ」(三浦氏)

 日常的にむせやすい人も、飲み込む力が弱まっているので気をつけたい。通常食べ物を飲み込む際には、嚥下(えんげ)反射といって、気道の入り口が閉じる。ただ、むせやすい人は十分に閉まらず、食べ物などが気道に入りやすいからだ。実は飲酒も嚥下反射を弱める。お屠蘇(とそ)と餅の組み合わせは、喉に詰まらせやすい。

 餅を喉に詰まらせないためにはどうしたらいいか。まずは、餅を一口大の2センチ角ほどに切る。柳沢氏は「粘りが弱く付着しにくい、うるち米入りやジャガイモ、サトイモ入り餅に替えるのも手だ」と助言する。食べる前に汁物などで口の中を湿らせておくと喉につきにくい。大根おろしや納豆などをかけ、餅表面の付着性を減らすのもいい。

 「意識して十分にかむことが大切」と三浦氏。正月に餅を詰まらせる人が増えるのは、単に食べる機会が多いだけではない。意外な落とし穴が、久しぶりに会う家族との楽しい会話だ。「普段は餅の食べ方に気をつけている人も、つい楽しくて会話に夢中になる。すると食べることに集中できず、よくかまずに飲み込んでしまう」と三浦氏。

■まず咳をさせる

 不幸にも餅を詰まらせた場合、まず本人に咳(せき)をさせ、自力で餅を吐き出してもらう。しかし咳が出ず「苦しそうにしていれば窒息の可能性があるので、すぐに119番通報してほしい」(東京消防庁)という。

 通報後は、「背部叩打(はいぶこうだ)法」もしくは「腹部突き上げ法」で応急処置する。東京消防庁の推奨は肩甲骨と肩甲骨の間を強く叩(たた)く背部叩打法。「詰まらせた人の性別や年齢にかかわらず実施できる」(東京消防庁)。一方、日本医師会は腹部突き上げ法を推奨。これが無効なら、背部叩打法を行うとする。ただし、突き上げ法は乳児や妊婦には危険なので実施しない。

 必ずしもうまくいくとは限らないが、した方が救命確率は高まるという。強く圧迫したり叩いたりすると骨折が心配になるだろう。しかし「窒息すれば数分で心肺停止に陥る。骨折よりも命を守ることが優先。しっかり力を入れて行う」(三浦氏)。呼吸が止まった場合、自動体外式除細動器(AED)での心肺蘇生も考えられる。日ごろからどこにAEDがあるかを確認しておく。

 無事に応急処置で餅が出た場合も、医療機関を受診したい。喉にまだ餅が残っていたり、傷ついている可能性があるからだ。また、応急処置により骨折や内臓が傷ついている可能性もある。

 事故を起こさないためにも、餅はよくかんでゆっくり味わおう。

◇            ◇

■おせち、塩分・糖分に注意

 正月の食べ物では、餅以外にも気をつけることがある。「保存が利くおせち料理は、全般的に砂糖や塩が多用されており、食べ過ぎに注意。加熱した野菜が多いので、不足しがちなビタミンを補うために果物などを食べるといい」と柳沢氏。

 三浦氏も「食べる量にもよるが、1食でカップラーメンと同程度の塩分摂取になることもある」と指摘。加えて寝正月による運動不足、飲酒が重なると「急激に血圧が上昇する可能性があり、脳卒中を引き起こす原因にもなる」(三浦氏)と警鐘を鳴らす。

 また、飲酒後の寒い早朝や深夜の入浴も血圧の大きな変動を引き起こしやすいので注意しよう。

(ライター 武田 京子)

[日経プラスワン2015年12月19日付]

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