温泉の効能、もっと知ろう 高血圧や糖尿病にも効果国が適応症拡大、予防の期待も

年末年始は温泉で日ごろの疲れをとりたい。冷え込む中、こう考える人も多いだろう。温泉の効能といえば肩こり、腰痛の緩和が代表例だが、最近は軽度の高血圧や糖尿病への効果なども確認されている。こうした知識を普及させる取り組みも始まっており、正しく理解すれば温泉の楽しみ方の幅が広がりそうだ。
日本健康開発財団は入浴後の手の状態などを調べる(栃木県那須塩原市の塩原温泉)

「寝転がるようにして温泉に入れば、副交感神経の働きが活発になります」。今月2日、東京都中央区のビルの一室に約20人の温泉好きが集まった。日本健康開発財団(同区)が設けた「温泉健康指導士」の取得を目指す1期生だ。温泉や入浴が体にどう影響するか、メカニズムを学ぶ。男性会社員(46)は「しっかり学び、温泉の魅力を同僚らに伝えたい」と耳を傾けた。

同財団は温泉医科学研究所を通じ温泉の効果について科学的な裏付けを積み上げてきた。月岡温泉(新潟県新発田市)の美肌効果を巡り、塩化物成分が肌を覆って水分の蒸散や乾燥を防いでいることを明らかに。長湯温泉(大分県竹田市)では慶応大などと共同で、飲むと胃の痛みなどが改善する可能性を見つけた。

研究に基づく医学的な基礎知識を知ってもらい、周囲に広めてもらおうと一般向けに創設した資格が「指導士」だ。5回の講座を経て、試験に合格すれば認定証を手渡す。同財団の後藤康彰主席研究員は「温泉を生かした健康づくりに役立ててほしい」と話す。

研究が進んだことで、環境省は昨年7月、温泉の適応症を増やした。適応症はいわば効能のこと。脱衣所や浴室に掲示され、見かける人も多いだろう。

温泉成分が基準値を満たす療養泉に共通する「一般的適応症」は、従来の2倍の12分類に。軽い高血圧、胃もたれの改善、糖尿病への効果などが追加された。例えば糖尿病では、患者の血糖値が下がる効果が確認されたという。見直しに協力した日本温泉気候物理医学会の副理事長を務める倉林均・埼玉医科大教授(リハビリ学)は「5~6年間にわたり世界の論文を集めた」と話す。

温泉の作用は3種類に分けられる。1つ目は物理学的作用。体が温まって血の巡りが良くなり、筋肉痛・関節痛なども和らぐという広く知られた効果だ。

2つ目が成分による化学的作用で、適応症拡大はこの解明が進んでいるため。温泉から出る硫化水素ガスなどが皮膚から吸収され、血管を広げて血圧を下げる。温熱効果も加わって軽い高血圧であれば改善される可能性もあるという。

泉質別でみると、弱アルカリ泉は成分と皮脂の脂肪酸が反応し、皮膚表面にせっけんが出来て肌がきれいになる。酸性泉は殺菌作用が強く、アトピー性皮膚炎を改善するとされる。

3つ目は生物学的作用と呼ばれる。気分転換が図られ、リラックスできるという趣旨だが、研究者の関心が高いテーマ。一般的適応症に追加された「自律神経不安定症やストレスによる諸症状(睡眠障害・うつ状態など)」もこれだ。

もちろん過度の期待は禁物だ。倉林教授は「温泉療養はあくまで西洋医学の補助手段だと考えて」と話す。健康増進に食生活の改善や適度な運動が必要なことは言うまでもない。

ところで温泉には予防効果もあるのだろうか。九州大病院別府病院(大分県別府市)の前田豊樹准教授(内科)らは3月、温泉入浴が5つの病気の予防につながる可能性があるとする報告書をまとめた。高血圧や高脂血症、うつ病などだ。

同市で65歳以上を対象にアンケートを実施し、1万人以上から回答を得た。毎日の温泉入浴を長年続けている人と、そうした習慣がない人などを比較。男性の高脂血症なら「炭酸水素塩泉への長年の入浴」など、予防の可能性があるパターンが分かったという。

温泉の効果は短期間の滞在では得られにくい。とはいえ食事や名所だけでなく、温泉そのものの理解を深めた上での行き先選びも試してみてはいかがだろうか。

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がんや心臓病 入浴に危険も

温泉には入浴を避けるべき禁忌症も定められている。進行した悪性腫瘍(がん)や重い心臓病などが対象。該当しても日本温泉気候物理医学会が認定する温泉療法医に相談するなどして、療養を行える場合もある。

適応症とともに昨年7月に見直され、例えば妊婦の入浴禁止は医学的に根拠がないことから削除された。禁忌症に加わった1967年はまだ交通網が発達していない頃。「温泉地に行くのが大変」を理由に定められ、これまで残ってきたとされる。

一般的にはセ氏42度以上のお湯につかると血管内に血栓ができやすくなり、脳卒中などにつながる。高齢者のほか、脳卒中などの発症経験がある人は注意が必要だ。温泉地ではついつい酒を過ごしてしまいがちだが、飲酒後の入浴も避けた方が良い。水分補給も忘れないようにしたい。

(辻征弥)

[日本経済新聞夕刊2015年12月17日付]