食の細る高齢者 薬局が訪問指導家族の要望に対応 保険対象外、現状は無償

高齢者の自宅に管理栄養士を派遣し、体調などに応じて栄養指導する調剤薬局の取り組みが広がっている。食が細って低栄養に陥る場合があり、「介護食の作り方などを知りたい」という家族らの要望が高まっているためだ。ただ医師の指導のもと、病院などの管理栄養士が指導すれば介護保険が適用されるが、薬局は適用外。定着には課題が残る。
自宅を訪問し、食事指導する管理栄養士

「退院した腎不全の妻に何を作ってあげればいいのか分からない」。調剤薬局「なの花薬局」を全国展開するファーマホールディング(札幌市)に、同市内の80代の男性から相談が寄せられた。同社の在宅訪問管理栄養士の藤田智子さん(40)は自宅に赴き、「腎臓に過度な負担をかけないよう、塩分は減らし、野菜をゆでるなどしてカリウムも抑えた食事を作りましょう」と指導した。

■低栄養者が3割

要介護認定を受ける高齢者のうち、3割は低栄養とされる。かんだり飲み込んだりする力が衰え、家族らも適した食事の作り方が分からず、食が細るためだ。日本栄養士会の迫和子専務理事は「軟らかいお菓子ばかりや1日2食など、偏った食生活で骨が弱まり、免疫力も低下する」と話す。

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」によれば、体重をメートル換算した身長の2乗で割ったBMI(体格指数)の目標値は年齢にかかわらず、上限値は24.9。一方で下限は18~49歳の18.5に対し、70歳以上は21.5と高めだ。高齢者の方が痩せすぎになる恐れが大きいためだ。

介護保険には在宅の高齢者に栄養指導するための仕組みがある。病院や診療所の医師の指示のもと、管理栄養士が訪問する場合は月2回まで保険が適用される。介護報酬は1回につき5300円で、うち1割が利用者の負担となる。

ただ日本栄養士会の「2014年度全国病院栄養部門実態調査」によれば、中小規模の病院に所属する管理栄養士は平均2.4人、地域の基幹病院でも5.3人にとどまる。病院の栄養士の仕事は入院患者のための献立作りや栄養指導が主で、訪問を前提としていないケースが多い。「保険に基づく訪問は年1千回程度にとどまるのではないか」(同会)との見方もある。

■レシピ考案・提供

一方で高齢化が進む中、訪問による栄養指導を求める声は高まっており、調剤薬局の取り組みが広がる。

大手の薬樹(神奈川県大和市)は患者の自宅を訪問する薬剤師から情報を集め、管理栄養士を派遣している。社内の専用厨房でガスコンロや炊飯器など家庭で使う機器を使って介護食を試作。塩分を減らし、飲み込みやすくするなどしたレシピを栄養士を通じ提供しているほか、冷蔵庫の食材のチェックなども行う。

同社によると、2015年度の訪問は128回と前年度より40回増えた。保険薬局事業本部の永瀬航担当マネジャーは「栄養指導のニーズは年々高まっている」と話す。同様の訪問を手掛けるクオールは、コレステロールに配慮した昼食を提供する地域住民向けのイベントなども開く。

各社は医師の指示を受けていないため、介護保険は適用されない。「栄養指導を続ければ調剤薬局の利用者も増える」(クオール)という狙いもあり、無料で訪問している。

厚労省は「薬局はあくまでも薬事の仕事をする場所。医師の指示がない中での栄養指導で問題が起きた場合、責任の所在があいまいになる可能性もある」(老健局)との立場。適用対象を広げる考えは今のところないという。各社が無償のままこうした取り組みを維持できるかは不透明で、有料化した場合は利用が広がらない可能性もある。

名古屋大学大学院の葛谷雅文教授(地域在宅医療学)によると、自宅での栄養指導で体調が改善し、薬の摂取量を減らせる高齢者もいるという。葛谷教授は「低栄養の予防をかかりつけ医だけで担うのは難しい。薬の副作用なども考慮した指導を行うため、薬局の薬剤師や管理栄養士らとも連携し、情報を共有しながら対応する必要がある」と指摘している。

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管理栄養士資格 国際標準化動く

管理栄養士は栄養士法に基づく国家資格。専門の学部を持つ4年制大学の課程を修了するか、短大や専門学校を経て実務経験を積めば受験資格を得られる。

今年4月時点の有資格者は約20万人で、うち働いている人は約12万人。医療事務などとの兼業が多いほか、管理栄養士ではない仕事が主な人も含まれる。

これまで患者の栄養状態を判断し、管理するための各国共通の基準は無かった。このため各国の栄養士会などが協力して共通基準「栄養ケアプロセス」の策定を進めている。

策定されれば、日本の管理栄養士が欧米やアジアで有資格者として働いたり、逆に海外の人材が日本で勤務したりできるようになる可能性がある。

(大西綾、辻征弥)

[日本経済新聞朝刊2015年12月13日付]

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