大村さんノーベル賞 微生物からなぜ薬が?

微生物からなんで薬ができるの?

スーちゃん ノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智先生は微生物(びせいぶつ)を研究して、寄生虫が原因で起こる病気を治す薬を見つけたんだよね。土の中にいる小さな生き物がなんでそんな力を持っているのかな。

生存競争のために作る物質を利用するんだ

森羅万象博士より 微生物の大きさはかみの毛の太さの10分の1以下しかない。顕微鏡(けんびきょう)でようやく見えるくらい小さい。よく肥えている田畑の土1グラムには、100億個くらいいるそうだ。海や川の水などにもいるよ。

微生物には、カビの仲間、糸のように細長い形をした放線菌(ほうせんきん)、バクテリア(細菌)などがいる。大村先生たちは静岡県のゴルフコースの土にすむ放線菌を調べ、菌が出す物質からアフリカの人たちを苦しめるオンコセルカ症という病気を治す薬ができた。この薬はペットの虫下しにも使われているよ。

自然の中の微生物は動物の死がいやふん、植物の落ち葉などを分解するそうじ屋なんだ。植物は光合成で栄養を作るから「生産者」と呼ぶ。動物は植物や動物を食べて栄養をとるから「消費者」という。微生物は「分解者」に分類され、死がいやふんなどをくさらせて植物の養分になる鉄分やリンなどに変える。

土の中の微生物たちにも、きびしい生存競争がある。相手の方が増えてしまえば栄養をとれなくなって負けてしまう。そこで、一部の微生物は相手を殺す物質を作るようになった。これから作った薬が「抗生(こうせい)物質」だ。

シャーレの寒天の上で2種類の微生物を育てると、片方の微生物の周りに円ができる。そこにはもう片方の微生物はいない。抗生物質によって競争相手が領土に入ってくるのをじゃまして、食べ物の寒天を確保しているんだ。

抗生物質を病気を治すのに最初に応用したのが英国のアレクサンダー・フレミングだ。1928年にアオカビが作ったペニシリンという抗生物質を見つけた。42年に実用化された。第2次世界大戦でけがした兵士たちの傷口が化膿(かのう)してひどくなるのを防ぎ、肺炎を治すのにも大きな効果があった。

これをきっかけに微生物が作る抗生物質探しが進んだ。43年に米国のセルマン・ワクスマンらがストレプトマイシンを見つけた。死の病といわれた結核(けっかく)によく効いて、この病気で死ぬ人が大きく減った。フレミングは45年、ワクスマンは52年にノーベル生理学・医学賞をもらっている。

微生物が作る物質からは、血液中のコレステロールを減らす薬やがんの薬なども開発されているよ。

微生物はおいしい食品を作るのにも役立つ。牛乳からヨーグルトを作る乳酸菌、みそやしょうゆを作るコウジ、小麦を発酵させてパンを作る酵母(こうぼ)などだ。ビールやワインといったお酒を造るのにも欠かせない。ほかにも植物から燃料を作ったり、土や水をよごした有害物質を分解したりするのにも使われているよ。

これまでに見つかった微生物は約17万種だそうだ。地球にはこの数十倍以上いるらしい。こわい病気を引きおこすものもいるけど、役に立つものも多い。大村先生は「微生物は無限の資源」と語っている。これから見つかる微生物から、すごい薬やおいしい食品が生まれるかもしれない。

■抗生物質効かない菌も

博士からひとこと 抗生(こうせい)物質の登場によって、結核(けっかく)のようにかかると治すのがむずかしい病気がかんたんに治るようになった。しかし、抗生物質をむやみに使うようになった結果、薬が効かない細菌が出てきた。抗生物質から生き延びようと変化したからなんだ。
細菌などの微生物は1つが分裂して2つに増える。そのスピードが速い。たまたま抗生物質に強い細菌がいて生き残ると、すぐに増えてしまう。抗生物質によって競争相手となる微生物が死んでいるから、増えるのはかんたんなんだ。最近は複数の薬が効かない耐性菌(たいせいきん)も見つかっていて、大きな問題になっている。

(取材協力=仁平卓也・大阪大学教授)

[日経プラスワン2015年12月12日付]

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