徳島・鳴門金時、海砂が育むサツマイモ甘み・風味、まがいもなし

上品な黄金色で甘みが強く、ホクホクした食感がこたえられない。徳島県鳴門市周辺で栽培されるサツマイモ「鳴門金時」が、いま食べごろを迎えつつある。焼き芋はもちろんのこと、和洋中を問わず様々な料理や菓子に使っておいしい万能選手だ。

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11月初旬、鳴門市の出村農園を訪れた。畑の畝には手掘りしたばかりのイモが並ぶ。「土壌に含まれるミネラルがイモを甘くする」と出迎えてくれた出村克仁さん(65)が教えてくれた。塩分やヨウ素などを多く含み水はけの良い海砂を使うのが鳴門金時の特徴。確かに足元をよく見ると土がサラリとしている。

「あと数日で収穫作業は終わるよ」と出村さん。もう「旬」は過ぎてしまったのかと早合点しがちだが、むしろこれからがおいしい季節なのだという。イモから甘みを引き出すため、倉庫で数カ月間貯蔵してから出荷するためだ。

鳴門金時の収穫は一般的に7月中旬から。土に手を突っ込んで大きく成長しているものだけを収穫する「探り掘り」に始まり、11月まで収穫は続く。みずみずしさや季節感を売りに「新物」として出回るものもあるが、甘さや食感は熟成したイモにかなわない。

ミネラルを豊富に含んだ海砂で育てることで甘いイモに育つ
収穫したイモは少し乾燥させてから倉庫に貯蔵する

出村農園の場合、掘りたてのイモは糖度が5度前後。これを温度管理した倉庫で貯蔵すると、でんぷんが糖に分解されるうえ水分が抜けるため、13度前後まで糖度が上がっていく。ピークの1~2月までどんどんおいしくなっていくが、それ以降は水分が抜けすぎて食感が悪くなるという。

オススメの食べ方を出村さんに聞くと「焼き芋」と即答だった。作り方は簡単。生イモをそのままオーブントースターに入れ、じっくりと焼くだけ。2本で30~40分程度と時間はかかるが、ゆっくり熱を通すことで、でんぷんを糖に変えるのがコツという。電子レンジなら数分で熱は通せるが甘さは引き出せない。

ホクホクッとした食感と強い甘み、イモらしい風味のバランスが身上だ

出村さんの焼き芋をごちそうになった。熱々をパカリと二つ割りにしてほお張ると、ホクホクして驚くほど甘い。しかし口から甘さはスッと消え不思議と後を引く。あっという間に1本食べ終えてしまった。「甘さがくどくないでしょう。毎日食べてるけど全然飽きない」と出村さんは笑う。

全国各地のサツマイモに詳しい、焼き芋専門店ふじ(東京・世田谷)店長の上原浩史さんは「昔ながらのイモらしい食感がありつつ、しっかり甘いのが鳴門金時の魅力」と話す。甘みの強さなら「安納芋」などの品種が勝るが、加熱すると蜜が出てねっとりとペースト状になるのが特徴。鳴門金時のホクホクした食感は、幅広い料理や菓子に向いている。

瀬戸内海国立公園内にあるリゾートホテル、「ルネッサンスリゾートナルト」(鳴門市)。天ぷらやコロッケ、テリーヌ、ムース、大学芋、ソフトクリームなど、和洋中問わず幅広く鳴門金時を使ったメニューを提供し人気を集める。イモの年間使用量はなんと6.3トンにものぼるという。

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天ぷらや大学芋などシンプルな料理でもおいしく食べられる

エグゼクティブシェフの伊藤俊哉さん(40)は「当たり前の料理でも、しっかりおいしくなるのがすごい。甘みが強いので砂糖を減らして素材の味で勝負できる」と絶賛する。昔はサツマイモの天ぷらは苦手だったが、徳島で食べて味の違いに驚いたそうだ。

土産物など加工食品にも向いている。鳴門のいも屋(鳴門市)の名物商品「芋棒」は、スティック状に切った鳴門金時に蜜をからめた大学芋。表面のカリッとした香ばしさとホクホクした食感が楽しい。「水あめを使わずグラニュー糖で蜜を作りサラッとした甘さに仕上げました」と専務の仲野智也さん(39)。

同社では他にも、鳴門金時をすりつぶして練り込んだ郷土菓子「いも餅」や、スイートポテトなど様々な製品を販売。焼き芋を使って仕込んだ焼酎の製造まで手掛けている。オンザロックで口に滑らせると、焦げたイモの香りとほのかな甘みがふわりと広がった。

徳島県内では、お歳暮など冬場の贈答にも鳴門金時は重宝されている。価格は5キログラムで5千円前後。生のサツマイモを贈るのは地味に感じるかもしれないが、「旬」と重なることもあり味は折り紙つきだ。おせち料理に欠かせない栗きんとんや甘煮にも向く。今年はお世話になったあの人に、甘い幸せを贈ってはいかがだろうか。

<マメ知識>糖度高い品種、栽培広がる
食品スーパーやコンビニを訪れると、焼き芋の甘い香りがすることが増えた。焼き芋器を導入し、1本100~200円程度と手ごろな値段で販売している。
目立つのは、スイーツのように甘みが極めて強く、ねっとりした食感に仕上がる「新顔」たちだ。
ブームの火付け役となった鹿児島県産の「安納芋」をはじめ「紅はるか」や「紅天使」など、糖度が高い品種の栽培が広がる。鳴門金時のようにホクホクした焼き芋は、だんだんと少数派になりつつある。

(徳島支局長 畠山周平)

[日本経済新聞夕刊2015年12月8日付]