洋ナシの貴婦人・新潟の「ル レクチエ」甘さと香り 口でとろける

「ル レクチエ」と聞いて何のことかわかる人は新潟県民以外ほとんどいないだろう。新潟で全国の約8割を生産する高級洋ナシの品種だ。とろけるような食感と、栽培が難しく出荷量が少ないことから「幻の果物」「洋ナシの貴婦人」などと呼ばれる。旬は短い。年末の約1カ月。まさに冬の訪れを告げる果物だ。その旬がやってきた。

栽培が難しく年末の約1カ月間しか出回らない
解禁日に店頭に並んだル レクチエ(新潟市の新潟三越)

連休明けの11月24日。新潟県内のデパートやスーパーにパステルイエローに色づいたル レクチエが一斉に並んだ。新潟では、品質を保つために毎年解禁日を決めている。どんな果物にも食べごろがあるが、とりわけル レクチエは黄色に完熟する前に食べると本来のとろける肉質が味わえない。県内の栽培状況を見極めた上で、今年は24日が解禁日になった。

うまいが高い。大きさにもよるが、店頭での価格は1個400~800円。贈答用の大玉になると、5個(約3キロ)で1万円近くするものもある。

収穫は10月下旬までに終わる。収穫の最終段階、県内有数の産地である新潟市南区(旧白根市、旧月潟村)を訪ねた。旧月潟村で特大の最高級品をつくる木村久一さん(66)の木村農園でも収穫はほぼ終わり、涼しい倉庫で寝かせる「追熟」の段階に入っていた。

通常、10アール当たり1万個の実をならせるが、木村農園では6千個にとどめている。「木には限界があるので、摘果して無理なく実を太らせる。ピカイチのものを作らないと首都圏では売れない」と木村さん。「育ち盛りの時に肥料を与え、収穫間際には肥料を控える。アクセルとブレーキを上手に使いわける」と言う。

大きく育ったル レクチエの実を確かめる木村久一さん(新潟市の木村農園)

実は木になったままでは完熟しない。収穫したばかりの実は鮮やかな緑色をしているが、実は堅く香りも弱い。これを約40日かけて一定の温度で寝かせて追熟させることで、16%程度まで糖度が高まり果肉がなめらかになる。色合いは黄色に変化し、芳醇(ほうじゅん)な香りを放つ。9割ほど追熟した段階で出荷され、残り1割で完熟バナナのような黄色に変わったら食べごろ。冷蔵庫ではなく、風通しの良い涼しい場所でその時を待つのがコツだ。

ル レクチエは明治時代に現在の新潟市南区の農家、小池左右吉氏がフランスから苗木を持ち帰りこの地に導入された。旧白根市には「ル レクチエ発祥の地」の石碑があり、今も当時の古木が残されている。

さらに旧月潟村には、国の天然記念物に指定されている樹齢200年の和ナシ「類産ナシ」の古木が日本で唯一現存している。類産とは多くの果実がなることを意味し、今でも驚くほどの実を付ける。信濃川沿いにあるこの地は肥沃な土壌に恵まれ、水害にも比較的強いナシの栽培が江戸時代から盛んだったという。

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丸屋本店のル レクチエ菓子(手前から時計回りに梨まん、貴婦人、ゼリー・新潟果樹園、越後梨羹)

ル レクチエはお菓子としても商品化され今では冬以外でも楽しめる。140年近い歴史を持ち、数々の受賞歴がある丸屋本店(新潟市)では、季節ものも含め5種類のル レクチエ商品を販売している。

「子供の頃に初めて食べた時、そのおいしさに仰天した」という本間彊(つとむ)社長。まだ、この果物の存在自体をほとんど誰も知らなかった頃だ。「このおいしさを広げるためには通年で食べられる商品にしないと伝わらない」。その思いで30年前、新潟市南区と並ぶ産地である加茂市のル レクチエ農園を訪ねた。

ところが、農家からは「1カ月しか持たない果物が菓子にできるわけがない」と断られた。それでも毎年通い続けて果実を分けてもらい、試行錯誤の結果5年越しでゼリーの商品開発に成功した。その後、ようかんやまんじゅうも開発。「東京に持って行っても誇れるような新潟らしい菓子を作りたい」(本間社長)との信念からだった。

コメと魚と酒。多くの人が新潟に持つイメージだろう。しかし、実際は野菜も果物も種類が実に豊富だ。昨年からは南魚沼市で温泉熱を利用したマンゴーの出荷も始まっている。

「フルーツ王国新潟」。ル レクチエは、そんな新しいイメージを広げる力を秘めている。

<マメ知識>フランスでも栽培されず
洋ナシと言えば山形県が主産地の「ラ・フランス」の知名度が高い。ル レクチエの生産量は昨年で1166トンと果樹全体がじり貧傾向の中では年々増え、健闘している。しかし、それでもラ・フランスの生産量の8分の1程度にすぎない。
ともにフランス原産だが、今はフランスでも栽培されていないという。新潟県の関川正規農産園芸課長は「ル レクチエの方がとろみがあり滑らかなのが特徴。栽培や管理の難しさを克服する技術を開発して、多くの人に味わってほしい」と話している。

(新潟支局長 大久保潤)

[日本経済新聞夕刊2015年12月1日付]