消費税にあえぐ大病院 診療費は非課税転嫁先なく、設備更新は多く 重い負担

消費税をめぐって医療界がもめている。消費税が原因で病院経営が悪化、設備投資もままならないという。2017年4月に消費税率が上がれば、さらに危機的になるとする。病院の機能がまひしたら困るのは患者だが、そもそも患者は病院窓口で消費税を負担しておらず、医療と消費税の関係はわかりにくい。一体何が起こっているのだろうか。

▽「ベッドの買い替えができず、患者の寝た姿が残るような古いベッドを使い続けている」

▽「高性能の放射線治療機器を導入したいが、できない」

▽「ガーゼの枚数までぎりぎりで抑えている」

国立大学付属病院長たちの声だ。全国43の国立大学病院では、それまで合計で年250億円ほどあった設備投資額が14年度は約170億円にまで減った。「このままでは大学病院の『最先端』機能が果たせない」(山本修一・千葉大付属病院長)との悲鳴が上がる。

■幹部の給与カット

中部地方のある大手民間病院は14年度、人件費の削減に踏み切った。院長ら幹部の給与を1割以上カットしたほか、すべての正規職員の定期昇給額を通常の半分以下に抑え込んだ。

これらの厳しい状況をつくった大きな原因が消費税にある。1989年に消費税が導入されたとき、健康保険証を使って受ける医療は「非課税」とされた。「医療は一般のサービスと違う」との考えからで、患者は病院や診療所の窓口で消費税を負担しないことになった。患者にとっては一見喜ばしいことだ。

ところが、ここに問題があった。医療機関が医療機器、設備などを導入する際には消費税がかかるが、患者からは消費税を取れず、税負担を転嫁する先がなくなってしまったのだ。小売業者であれば、消費者から受け取った消費税から仕入れなどにかかった消費税を差し引いて納税するので、業者自体は負担しない。

このまま放置はできないと政府は対策を講じてきた。医療機関の収入源である診療報酬の引き上げだ。診療報酬とは検査や手術など医療行為の一つ一つについて政府が定める価格。税の問題を別の手段で解消しようとしたわけだ。

消費税率が5%から8%に上がった14年4月には、政府は診療報酬のうち初診料を120円上げて2820円に、再診料を30円上げて720円にするなどの対応をとった。

ところがそれでも問題は解決しなかった。診療報酬は原則として全医療機関に一律に適用される。しかし医療機関はその規模や機能によって設備投資額が大きく異なる。高度な手術などを実施する大病院は最新機器を含め様々な設備をよく導入するので、診療報酬の一部が上がったぐらいでは負担する消費税を賄えなかった。

患者が医療費を支払う際、消費税は負担していない(東京都杉並区の河北総合病院)

全国43の国立大学病院では診療報酬で手当された分を除く消費税の負担が14年度で54億円に達した。民間大手の河北総合病院(東京・杉並)では消費税導入以降、手当されていない消費税負担が約22億円あるという。

■還付案など浮上

事態を打開しようと、医療界では様々な対応策が検討されている。これまでの方針を大転換し、一般のモノやサービスと同様に医療も消費税課税とし、その際には軽減税率を適用すべきだとの案や、非課税を維持したまま病院が負担する消費税を還付する仕組みをつくる案などが浮上している。

この問題に詳しい国際医療福祉大学の安部和彦准教授は「消費税が5%から8%に上がって大病院を中心に深刻な事態が浮き彫りになってきた。何らかの対応が必要だが、医療に課税することは国民の理解を得にくいので、非課税を維持して医療機関が負担する消費税の一部を還付する仕組みが妥当だ」と指摘する。同様の仕組みはカナダでも導入されているという。

この問題、最終決着まではまだ時間がかかりそうだ。ただ税にしても診療報酬にしても元を正せば国民の負担。納得できる解が得られるかどうか、関心を持っておきたい。

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診療報酬上げの恩恵 病院規模で差

消費税を巡る問題の深刻さ加減は医療機関の規模や種類で異なる。大病院にとっては大きく、街の小さな診療所や慢性病・精神疾患向けの療養型病院などはそこまでではない。かえって経営に余裕が出ているところもあるという。

診療所や療養型の病院などは最新機器を導入するといった設備投資が比較的少なく、消費税負担も小さい傾向がある。このため初診料などの診療報酬の引き上げによる増収効果の方が消費税負担よりも大きい場合もあるようだ。

厚生労働省が11月に公表した医療経済実態調査でも温度差は見て取れる。13年度に比べ14年度はほぼすべての医療機関で収支が悪化したが、精神科病院はわずかではあるものの改善していた。一般病院全体では赤字幅が拡大したが、それより規模が小さい診療所は黒字を維持していた。

このような状況のため、医療界が一枚岩になりきれず、消費税問題への対応が定まらない原因となっている。少なくとも診療所と病院では対策を分けるという考え方も浮上している。

(編集委員 山口聡、山崎純)

[日本経済新聞朝刊2015年11月29日付]

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