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起源は江戸時代 鳥取「とうふちくわ」 主役に脇役…変幻自在

2015/11/25 日本経済新聞 夕刊

ちくわといえば普通は魚肉だが、鳥取県東部のとうふちくわは木綿豆腐と白身魚のすり身を混ぜて蒸し上げた独特の食品だ。豆腐の食感とほんのり魚の味がしみ出てくるのが特徴だ。この淡泊な味を利用して他の料理と合わせようという取り組みが続くほか、最近はとうふちくわ自体の味も多彩になってきた。

とうふちくわは蒸すのが基本なので表面は白い

10月3~4日、青森県十和田市で開かれたご当地グルメの祭典「Bー1グランプリ」の会場に「鳥取とうふちくわ」ののぼりがあった。2006年の第1回から連続10回出展しており、リーダーで鳥取情報文化研究所(鳥取市)所長の植田英樹さんは「全国的な知名度は着実に向上してきた」と話す。用意したとうふちくわの盛り合わせも早々に完売した。

とうふちくわの歴史は古く、1648年に鳥取藩主として入国した池田光仲が高価な魚の代わりに豆腐を食べるよう勧めたのがきっかけといわれる。当時の鳥取は漁港の整備が遅れ、魚は貴重だった。一方で、山村が多く、田のあぜで盛んに大豆が栽培され、「城下の台所」だった元魚町周辺には多数の豆腐店があったという。豆腐で新しい食品ができないかと考案したのがとうふちくわだった。

鳥取駅から車で約15分。鳥取自動車道鳥取南IC近くの「とうふちくわの里」を訪ねた。今年創業150年になるちむら(鳥取市)の工場兼直売所だ。専務の千村大輔さんに案内してもらった。

まず早朝の豆腐づくりから。ここでは鳥取県産大豆を100%使っている。大きな水槽に四角い木綿豆腐がずらりと並び、これから機械で豆腐に圧力をかけて水分を絞り出すのだという。その後、豆腐を細かく粉砕し、白身魚のすり身と練り合わせていく。

とうふちくわは、ちむらのほか、浜下商店(鳥取市)や前田商店(同)など数社が製造している。メーカーによって多少の違いはあるが、豆腐とすり身の比率はほぼ7対3だ。千村さんは「白身魚はタイやタラなどを使います。練り合わせるときに塩などの調味料を加えて、独自の味を出していきます」と話す。

豆腐と魚のすり身を練り合わせるのは従業員の長年の勘が頼りだ

練り合わせでは、ほどよい粘りが出るようにするのがコツ。その日の気温や湿度を勘案しながら水分を調整する。製造工程はほぼすべて機械化したが、練りだけは従業員の長年の勘が頼りだ。

豆腐とすり身を練り合わせたら、ちくわの形に成型する。機械で金属の棒を回転させながら、その周りにすり身を付けていくと、やや太めのちくわになった。

ちくわは表面を焼いたものが多いが、とうふちくわは蒸すのが基本だ。蒸し工程に10分ほど通したら出来上がり。千村さんのすすめで出来たてをいただく。豆腐のふわりとした食感が口中に広がり、かんでいくにつれて白身魚の味がしみ出てきた。

多い日には1日1万本製造する。1本のとうふちくわには豆腐が1丁分入っているといわれる。長さは約18センチ、太さは真ん中の穴も含めて直径4センチと、普通のちくわに比べて大きい。

食卓では副菜の一つで並んだり、酒のつまみにしたりするのがもっぱらだが、ここ数年、植田さんらを中心に料理への取り組みが続いている。

例えば、とうふちくわのシューマイ。とうふちくわをギョーザの皮で包んで焼き、辛子じょうゆで食べるとシューマイ風味になるから不思議だ。マーボー豆腐で豆腐の代わりに使えば、形崩れしないで提供できる。シーフードカレーやサラダにも合うという。

市内の料理店「にしやん」は、とうふちくわに大葉を載せ、のりで巻いた「とうふちくわにぎり」を、「なかむら食堂」は磯辺揚げを提供している。

ギョーザの皮でとうふちくわを巻いて焼くとシューマイ風味になる
レモンやトマトチーズ味など味も多彩になってきた

とうふちくわ自体の味も多彩になってきた。ちむらは市内の郷土料理店「たくみ割烹店」と共同で「鳥取和牛とうふちくわ」を商品化した。同店の人気メニューの一つ「鳥取和牛しぐれ煮」を練り合わせたもので、すき焼きのような濃厚な味が楽しめる。

社員が考案したとうふちくわを1週間、店頭に置いて客の評判を聞く取り組みもしている。そこから生まれたのが「レモンとうふ」。瀬戸内産のレモンを使い、すっきりした口当たりにした。今年4月にはオリーブオイルやバルサミコ酢をつけて食べる「トマトとチーズのとうふちくわ」を商品化。ワインにも合うという。「いずれも女性の人気が高い」と千村さん。

淡泊な味から多彩な味へ。鳥取東部の伝統食品に新しい顔が増えつつある。

<マメ知識>ヘルシー食材で注目?
鳥取市外へはなかなか出回らなかったとうふちくわ。豆腐も魚のすり身も日持ちしにくく、消費期限が冷蔵でも製造日から3~4日と短いためだ。だが真空パックの活用で約10日に延び、中国自動車のサービスエリアなど県外での販売も増えてきた。
畜肉ソーセージと比べてたんぱく質含有量はほぼ同じだが、低カロリーなのが特徴。骨粗しょう症の予防にいいとされる大豆イソフラボンも含まれる。運動選手や高齢者向けにヘルシーな食材として見直される動きも出てきている。

(生活情報部 川鍋直彦)

[日本経済新聞夕刊2015年11月24日付]

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