さようなら
滅亡の風景の中の希望
「歓待」(2010年)、「ほとりの朔子」(13年)の深田晃司監督の新作。つねに新鮮な題材と取り組む深田だが、こんどは特に冒険的。人間とアンドロイドを共演させる、平田オリザの演劇プロジェクトに刺戟(しげき)をうけ、その最初の作「さようなら」を映画化した。
もとの舞台は15分ほどなので、周辺の設定は映画独自のもの(脚本も深田)。
近未来SFである。日本全国で13カ所の原発が炎上し、放射能が全土を汚染。国民は政府の指定する海外退避の順番をまっている。
白人女性ターニャ(「歓待」にも出演していたブライアリー・ロング)はアンドロイドのレオナとともに高原にポツンとたった家で日を送っている。
レオナとの会話は日本語と英語。最初は英語からはじまるので、枯れた高原の風景ともあいまって外国映画かと思う出だし。
あれから5カ月。ターニャは、こどものころから病弱で、そのため両親が話し相手としてレオナを買いあたえた。いまや、放射能のせいだけではなく、日に日に体調が悪化している。なかなか退避の順番がまわってこないのは、彼女が南アフリカからの難民だったからか。
結婚したい、と恋人の在日コリアン、サトシ(新井浩文)に言うと、気もちをわかって承知してくれるが彼の家族に順番がまわったとき、彼は去る。差別、逆差別をめぐっての気もちの衝突もあった。
たずねてくる人もいなくなり、ターニャの肉体は死に近づいていく……。
これまでの深田の人間喜劇とはことなる静かなタッチ、ゆっくりとした呼吸の映画であり、初期の短篇(たんぺん)、バルザック原作「ざくろ屋敷」(06年)のかたりくちを思い出させる。
最後、滅亡の風景のなかで、アンドロイド、レオナは希望をはげしく求める。これはだれの意志か……。1時間52分。
★★★★
(映画評論家 宇田川 幸洋)
[日本経済新聞夕刊2015年11月20日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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