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高齢者、寒い日にご用心 温度・湿度を家族も確認を 入浴でヒートショック、室内で「かくれ脱水」…

2015/11/20 日本経済新聞 夕刊

朝晩の冷え込みが厳しくなり間もなく冬本番。高齢者が元気に過ごせるよう、家庭では温度や湿度の調整に注意したい。急激な温度変化による「ヒートショック」で入浴中に溺れたり、乾燥した室内で気付かぬうちに脱水症状に陥ったりする危険がある。高齢になると体温の調節機能が落ちるため、周りのサポートも重症化を防ぐ鍵だ。家庭での予防策を専門家に聞いた。

暖房がきいた部屋を出て、冷え切った洗面所で服を脱ぐ。震えながら慌てて熱い風呂へ――。誰もが経験することだが、「体に大きな負担がかかっている。持病がない高齢者でも、いつ異変が起きるか分からない」と東京都健康長寿医療センター研究所(東京・板橋)の前副所長、高橋龍太郎氏は警鐘を鳴らす。

ヒートショックは急な温度変化で血圧が上下に大きく変動し、意識がもうろうとした状態などになること。冬場の洗面所は室温が10度以下になることも珍しくなく、脱衣もあって血圧は急上昇。それが湯船につかると血管が広がって急激に下がってしまう。失神する恐れもあり、転んだり、湯船で溺れたりする。心筋梗塞や脳梗塞も引き起こす。

できるだけ温度差を減らすことが大切だ。高橋氏は肌の露出が多くなる洗面所やトイレは暖房器具で暖めることを勧める。風呂の温度は熱すぎないよう41度以下に。最後の方だけでもシャワーで湯を張れば、湯気が多くなって浴室全体が暖まる。生理機能が活発で夜より気温が高い日没前に入浴し、深夜や早朝、食後1時間や飲酒後は避ける。

同居者がいれば先に入って浴室を暖め、高齢者の入浴中はこまめに声をかけるなどして異変がないか気にかけたい。「一人で入浴できる人ほど発見が遅れ、重大な結果になる危険が高い。健康だから大丈夫と思わずに対策を」(高橋氏)

脱水症状にも警戒が必要だ。医師らでつくる「教えて!『かくれ脱水』委員会」によると、密閉された部屋で暖房を使う冬は空気が乾燥し、肌から水分が蒸発する。汗をかく夏と違い自覚しにくく、放置すると血流が悪化し脳梗塞や心筋梗塞につながる恐れがある。水分が失われた時にノロウイルスなどに感染し、下痢や嘔吐(おうと)に至れば一気に重症化してしまう。

同委員会の服部益治・兵庫医科大教授は「のどが乾いていなくても、2時間に1回を目安に水分補給を」と呼びかける。「トイレに頻繁に行きたくない」と水を飲むのを控える高齢者もいるが、就寝中は特に乾燥が進む。寝る前に1杯、夜中にトイレに起きた時も1杯飲んだ方がいいという。

利尿作用があるアルコールやカフェイン入りの緑茶やコーヒーは「逆に水分が失われかねない」(服部教授)ので要注意。白湯やスポーツドリンクのほか、体調を崩している時は経口補水液が効果的だ。室内の湿度は50~60%前後に保つ。加湿器がなくても、洗濯物やぬれたタオルを干せば湿度が上がる。数時間に1回は換気し、外気を取り入れることも役立つ。

周りが脱水症状にいち早く気付くにはどうすればいいか。食欲がない、などだるそうな時は脱水の疑いがある。肌がかさついている、口の中が粘ついているのは乾燥のサイン。「手の甲をつまんで離し、元に戻るのに3秒以上かかる」といったチェック方法なら家族でも確認しやすい。

年とともに暑さ・寒さや水分不足への感覚は鈍り、体温を調節する機能も衰える。特別養護老人ホームのレジデンシャル常盤台(横浜市)の高橋好美施設長によると、過度の暖房や厚着、布団の掛けすぎで体内に熱がこもって微熱が出る高齢者も多い。「せきや鼻水など風邪の症状がないのに熱っぽい時は暖房や着衣を調整するだけで収まることがある」とこまめな温度・湿度の確認を勧める。

低温やけどにも気をつけたい。NPO法人、杉並介護者応援団(東京・杉並)の北原理良子理事長によると、湯たんぽや使い捨てカイロに長時間触れ続け、背中や足にやけどによるあざや水ぶくれができてしまうこともある。バスタオルなど厚い布に包んで使い、寝る時は肌に直接当たらないように。北原理事長は「もっとも温度や湿度の管理が難しい季節。少しの工夫でできる環境づくりを心がけてほしい」と話している。

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■入浴中に体調崩し搬送 12~3月に多く 年9000人以上

入浴中に体調を崩して病院に搬送される人は冬場に急増する。東京都健康長寿医療センター研究所の調査によると、2011年に全国で少なくとも9360人(65歳以上)が入浴中に心肺停止になり搬送された。気温が下がる12~3月の4カ月が全体の6割を占める。1月が1759人と最多で、8月の約10倍だ。

ヒートショックが主な原因とみられ、同研究所は搬送されないケースも含めると年間1万7千人がこの症状のため死亡すると推計する。うち8割が65歳以上とみる。全体で交通事故(14年に4113人)の約4倍の人が亡くなっていることになる。

同研究所によると、高血圧の人は血圧が乱高下しやすく、意識を失う危険が高いという。動脈硬化が進んだ糖尿病や脂質異常症の人も血圧の維持機能が落ち、一層の注意が必要という。

(小川知世)

[日本経済新聞夕刊2015年11月19日付]

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