ヒトでなし 京極夏彦著絶望の境地のヒーロー

(新潮社・1900円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

ページを開くやいなや、主人公・尾田慎吾の語りにひたすら引き込まれる。彼の境遇は悲惨と言う他ない。離婚、娘の死といった事件を経て、「妻だった人」に「ヒトでなし」と罵られる。

本書でヒトでなしは悪に見えない。むしろ、人間的な精神性を手放した、絶望の境地を指しているように読める。

だからこそ、尾田によって語られる人々は、借金取りに追いつめられる男、自殺未遂の塚本、リストカット少女、連続殺人犯などなど、とことんダメなどん底集団ながら、人間主義を切り捨てた地点にしかありえない、倒錯した爽やかさをまとう。この論理にして、この語り。京極堂の哲学的推理に痺(しび)れたファンにとっては、嬉(うれ)しいヒーローの登場だ。

★★★★

(ファンタジー評論家 小谷真理)

[日本経済新聞夕刊2015年11月19日付]

★★★★★ 傑作
★★★★☆ 読むべし
★★★☆☆ 読み応えあり
★★☆☆☆ 価格の価値あり
★☆☆☆☆ 話題作だが…

ヒトでなし 金剛界の章

著者:京極 夏彦
出版:新潮社
価格:2,052円(税込み)

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