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戦後政治の証言者たち 原彬久著 元首相らとのやり取り振り返る

2015/11/18 日本経済新聞 朝刊

オーラルヒストリーを活用して戦後政治外交史を解明してきた著者が、この手法との出会いからはじめて、聞き取りの現場を紹介しつつ、戦後政治史を振り返ったのが本書である。

(岩波書店・3100円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

政治の現場感覚を知るには、実際に政治をやっている人の話を聞くのが欠かせない。そこで、インタビューをもとに事実を発掘し、政治の現場を再構成する手法であるオーラルヒストリーの出番となる。

もっとも、会えば話が聞けるわけでもない。いきなり「政治は夜つくられるんだ。学者は政治が白昼つくられると思っているらしいが、勘違いも甚だしい」と怒り出す政界フィクサーの凄(すご)みに押されて、つい録音機のスイッチを押すのを忘れてしまうこともある。

またインタビューだけでは、研究としてのオーラルヒストリーにはならない。話し手は、自分をよく見せたいし、思い込みもあるから、正確な話をするとは限らない。研究者の方でも自分が聞いた特定の証言を重視してしまうことが起こってくる。

そこで、聞き取りの結果を、「白昼」に展開する出来事や残された記録と照合しながら、秘密のうちにつくられ外に現れなかった「夜つくられた」出来事を推測していく必要がある。

たとえば著者が大著をものにした1960年の日米安保条約改定をめぐる政治過程においては、同じ出来事を多方面から迫って実像が分かるということがあり、岸信介(元首相)をはじめとする自民党政治家のみならず、官僚や秘書、野党の政治家から、反対運動の指導者にまでインタビューを重ねた結果として、政治過程が復元されていく。

こうしたとき、国際政治の理論研究から出発した著者は、実直に理屈っぽい探究を続けていく。個別のやりとりで自分のことを「一書生」と表現する著者の誠実な姿勢が、優れたオーラルヒストリーを可能としている事情もよく分かる。あの岸信介をして二十数回のインタビューに応じさせたのは、この誠実さであろう。

岸後継を決める自民党総裁選をめぐって、池田勇人(元首相)の戦略や藤山愛一郎(元外相)の自己認識などが浮き彫りにする人間心理の機微にも引き込まれる。そのほか、社会党・浅沼訪中団の「日中共同の敵」声明の背後にある革新陣営と社会主義国の関係や、共産党の隠れた影響力など、具体的に裏付けられていく部分もおもしろい。

政治史として重要な本である以前に、とにかく読んで楽しい一冊である。

(政策研究大学院大学教授 飯尾 潤)

[日本経済新聞朝刊2015年11月15日付]

戦後政治の証言者たち――オーラル・ヒストリーを往く

著者:原 彬久
出版:岩波書店
価格:3,348円(税込み)

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